不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

吸血の家/二階堂黎人

二階堂黎人の諸作品を再評価*1したくなってきた。これ自体に理由は特にない。ただ、『容疑者Xの献身』論争における事実上の敗北が、その後の作家としての評価に悪影響を与えたのは確かであり、ここ10年ほどは、それは気の毒だと感じるようになっていた。また…

カンタベリー物語 賄い方の話/チョーサー

賄い方の話の序 一行は、カンタベリー街道のブレーの森のすぐ近く、ボブ・アップ・アンド・タウン(カンタベリーの北2マイルのハーブルタウンのこと、と注釈されているがGoogle Mapを見てもよくわからない)と呼ばれる村に着いた。もはやカンタベリーは目と…

カンタベリー物語 錬金術師の徒弟の話/チョーサー

出ました、中世ならではの職業の人が! 錬金術師の徒弟の話の序 聖セシリアの話が終わったとき、前夜の宿から5マイルも行かないうちに、ブーフトン・アンダー・ブレー*1で、一人の男が一団に追いついてくる。乗っていた馬をよほど急かしたのか、馬は汗びっ…

カンタベリー物語 第二の尼僧の物語/チョーサー

序もマリアへの祈りも、どうやら韻文っぽい。 第二の尼僧の物語の序 安逸を悪徳として非難する。快楽の門番、その反対である勤勉(仕事)をもって対抗すべき、安逸は腐敗した無為、破滅の原因ととにかくボロクソ。ここでいう安逸はidlenessのようであり、日…

カンタベリー物語 尼僧付の僧の物語/チョーサー

尼僧付の僧の物語の序 おやめなさい! あなたのお話はもうよろしい! 騎士がこう言って(割と直球)、修道僧の話を止める。理由として、没落を聞くのは非常に痛々しいことを挙げている。逆に貧しい境遇の人が昇りつめて繁栄する話は楽しいので、そっちが良い…

カンタベリー物語 修道僧の物語/チョーサー

ここから岩波文庫版は下巻です。 修道僧の物語の序 宿の主人が修道僧とかわした愉快な言葉 メリベウスの物語を聞き終えた宿の主人は、自分の妻ゴッドリーフ*1のことを思い出して興奮している。宿の主人は妻の暴力的な様子に不満たらたらである。が召使の男の…

カンタベリー物語 メリベウスの物語/チョーサー

チョーサーの二つ目の話「メリベウスの物語」は、長い。とても長い。しかも寛容についての物語であって宗教色が非常に強く、説法を受けている感が強くする。読むには相応の覚悟が必要だ。 チョーサーのメリベウスの物語始まる。 有力で裕福な君、若いメリベ…

カンタベリー物語 トパス卿の話/チョーサー

トパス卿は、巡礼団の一員ではない。話の当事者である。つまりトパス卿は、語り手ではなく登場人物に過ぎない。では「トパス卿の話」の語り手は誰かというと、巡礼団の中にいるチョーサーなのである。チョーサーはこの「トパス卿の話」と次回の「メリベウス…

カンタベリー物語 尼僧院長の話/チョーサー

尼僧院長の話の序 韻文調の文章が始まる。尼僧院長の話はずっとそうだが、物語に入っていない序の段階でも既にこれで、彼女の話が地の文になっている。登場人物としてのチョーサーの出番はない。 尼僧院長は主を讃す。イエス・キリストの名は出さないが、疑…

カンタベリー物語 船長の話/チョーサー

船長の話ここに始まる。 サン・ドニに住んでいた貿易商人は金持ちで、ゆえに懸命な人だと思われていた。彼の妻は美しい人で社交好き、お祭り騒ぎが好きな性格だった。 この貿易商人の客人に、三十歳頃の修道僧ジョン殿がいた。彼は顔が綺麗で、貿易商人と同…

カンタベリー物語 免罪符売りの話/チョーサー

免罪符売りの話の序 医者と免罪符売りに対する宿の主人の言葉 宿の主人は、先ほどの医者の話に悲憤慷慨する。そりゃそうだ。これまでで最も救いのない話でしたからね。かなり動揺しており、これまでで恐らく最長の長台詞でその感情を語る。そしてすぐに次の…

カンタベリー物語 医者の物語/チョーサー

ここに医者の物語続く。 序がなく、いきなり医者が話を始める。前の郷士の物語にも、次が医者であるとの示唆は一切ない。本当にいきなり、本題の話が始まるのだ。 ティトゥス・リヴィウスの語った話だとのみ前置きがある。昔ヴィルジニウスと呼ばれる騎士が…

カンタベリー物語 郷士の物語/チョーサー

郷士の物語の序 郷士は、古のブルターニュの詩歌を披露すると言う。ただし、額がないので言葉が野卑だし修辞もちゃんとしていないと断る。百年戦争の最中の当時のイングランドにおいて、フランスは今以上に心理的距離が近く、人の往来もカジュアルに行われて…

カンタベリー物語 近習の物語/チョーサー

近習の物語の序 恋を誰にも負けないぐらい知っているんだからと、恋の物語を求め*1られた近習は、恋をよく知っていることについて、そんなことはないと断ってから話を始める。 近習の物語ここに始まる。 というわけで、いきなりチンギス・ハーンにまつわる話…

カンタベリー物語 貿易商人の話/チョーサー

貿易商人の話の序 学僧の話を受けて、貿易商人は細君が口が達者な悪妻だ、じゃじゃ馬だとぼやく。そして、生涯女房を持たなかった人は、自分の細君の意地悪に感じる悲しみほど悲しいことはないのだろうとも叫ぶ。しかしながら、どうやら彼は、結婚して二か月…

カンタベリー物語 学僧の物語/チョーサー

ここにオックスフォードの学僧の物語の序続く。 宿の主は、学僧が無口で馬に乗っていると指摘する。 お願いですからもっと快活になって下さいよ! 放っておいて下さいよ!と返したいところではあるが、続く宿の主人の主張はわからぬでもない。彼は学僧に話を…

カンタベリー物語 召喚吏の話/チョーサー

召喚吏の話の序 召喚吏は初っ端からキレている。そりゃそうである。直前の、托鉢僧の話で散々おちょくられたから。嘘吐き托鉢僧の嘘の話を信じないように願うと巡礼団に呼び掛けた後、托鉢僧は地獄を知っていると豪語したが托鉢僧と悪魔は大してかけ離れてい…

カンタベリー物語 托鉢僧の話/チョーサー

托鉢僧の話の序 寺領廻りの立派な托鉢僧はいつも召喚吏にしかめ面をしていたが、野卑な言葉をかけてはいなかった。しかしながらバースの女房の話を終えた際に、遂に言葉の上でも攻撃的になる。彼は、バースの女房の話を褒めた後、召喚吏についての面白い話を…

カンタベリー物語 バースの女房の話/チョーサー

今回から岩波文庫版では中巻です。 この女房さんのパートは長い上に、他のパートと決定的に異なる点がある。語り手自身の話である「序」が濃いのだ。その濃さはやはり、バースの女房アリス―ン自身に起因する。彼女は、女傑です。そうとしか言いようのない強…

カンタベリー物語 弁護士の物語/チョーサー

宿の主人が一団の者に与えた言葉 宿の主人の知識によると、時は4月18日午前10時(時間は太陽の位置からの推定)。彼は一団を振り返って、時は間断なく流れていくので無駄にできないとして、弁護士を話し手に指名する。弁護士はこれを快く受諾する。 直前の(…

カンタベリー物語 料理人の話/チョーサー

料理人の話の序 料理人は家扶の話に大受けし、自分も冗談話をすると言う、宿の主人は、料理人が材料を減らしていること、余り物を温め直して何度も出すこと、客の巡礼が腹を壊していること、店に蠅が飛び回っていることなどを、冗談めかして指摘する。料理人…

カンタベリー物語 家扶の話/チョーサー

家扶の話の序 粉屋の話は好評であった。しかし元大工である家扶*1にはこれが面白くない。当てこすりだったと思ったのであろう。家扶は、自分が下卑た話をすれば「高慢ちきな粉屋の鼻を明かして仕返しをするぐれえはわけはない」が、自分は年寄であまり冗談を…

カンタベリー物語 粉屋の話/チョーサー

宿の主人と粉屋の間に交わされた言葉これに続く。 巡礼団の中で、騎士の話は気高いと好評だった。宿屋の主人は次の話者を修道僧に振ろうとするが、ビールで酔っ払った粉屋が割って入る。宿屋の主人に止められても聞きやしない。粉屋は、自分が間違ってもサザ…

カンタベリー物語 騎士の物語/チョーサー

騎士に対する振りと、これに対する騎士の所信表明(出発するから話はよく聞いておいてくれよ、ぐらいなものだが)は総序の歌で済ませているため、このパートは最初から騎士の語りからスタートする。すなわち、チョーサー視点の文章は含まれていない。 騎士が…

カンタベリー物語 総序の歌/ジェフリー・チョーサー

14世紀に英語で書かれた古典文学の日本語への完訳版を読み始めた。感想等を備忘録的にメモする。 4月、恐らくチョーサー自身である語り手が、カンタベリー大聖堂への巡礼を思い立ち、ロンドンのサザークにある宿屋に滞在する。そこには、同じくカンタベリー…

NHK交響楽団第1932回定期演奏会

2020年1月22日19時~ サントリーホール ウェーバー:歌劇《オリアンテ》序曲 リヒャルト・シュトラウス:四つの最後の歌 リヒャルト・シュトラウス:交響詩《英雄の生涯》Op.40 クリスティーネ・オポライス(ソプラノ) NHK交響楽団(管弦楽) ファビオ・ル…

ジャンルカ・カシオーリ/トリフォニーホール・グレイト・ピアニスト・シリーズ

2020年1月20日(月) すみだトリフォニーホール:19時〜 ベートーヴェン:6つのバガテル Op.126 ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ第12番変イ長調 Op.26《葬送》 ベートーヴェン:劇付随音楽《シュテファン王》序曲 Op.117 ベートーヴェン:ピアノ協奏曲第2番…

NHK交響楽団第1930回定期演奏会

5年以上の間が空きましたが、久々の更新です。2020年1月12日(日) NHKホール:15時〜 マーラー:交響曲第2番ハ短調《復活》 マリソル・モンタルヴォ(ソプラノ) 藤村実穂子(メゾ・ソプラノ) 新国立劇場合唱団(合唱) NHK交響楽団(管弦楽) クリストフ…

ロリン・マゼール/バイエルン放送交響楽団 シューベルト:交響曲第8番ハ長調《グレイト》

シューベルト:交響曲全集 Br Klassik Amazon 2001年3月18日、プリンツレーゲンテンシアターでのライブ録音。13日と16日と合わせて、同一会場でシューベルトの全交響曲連続演奏会の一環として演奏&収録された模様である。この会場はヘラクレスザールよりも狭…

ギュンター・ヴァント/ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団 シューベルト:交響曲第9番ハ長調《グレイト》

シューベルト:交響曲第8番「未完成」&第9番「ザ・グレイト」[1995年ベルリン・ライヴ] アーティスト:ギュンター・ヴァント SMJ Amazon 1995年3月28日、29日、フィルハーモニーでのライブ録音。カルロス・クライバーの代役として久方ぶりにヴァントがベルリン…