不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

カンタベリー物語 賄い方の話/チョーサー

賄い方の話の序

一行は、カンタベリー街道のブレーの森のすぐ近く、ボブ・アップ・アンド・タウン(カンタベリーの北2マイルのハーブルタウンのこと、と注釈されているがGoogle Mapを見てもよくわからない)と呼ばれる村に着いた。もはやカンタベリーは目と鼻の先であり、城門や大聖堂の塔が見えていてもおかしくない。

宿の主人は、皆さんどうしたっていうんです!と冗談を飛ばす。恐らく、巡礼団の皆が疲れているのを見て取ったのだろう。彼は、馬の上で船を漕いでいた料理人を起こし、朝だというのに*1何を寝ているのか、夜は蚤にたかられて眠れていなかったのか、一晩中酒でも飲んでいたのかと詰問する。

料理人の顔は青ざめていた。彼は、よくわからないおもっ苦しい感じがすると答える。その様子を二日酔いと見て取った賄い方は、口が臭い、腐った息、この野豚と罵る。料理人は膨れっ面になったが言い返せず、頭を振る。その拍子に彼は落馬し、助け起こされるまでそこに横たわってしまう。巡礼団は大騒ぎになるが、料理人の二日酔いは良くならない。

宿の主人は、酒に呑まれているから料理人は無知蒙昧な話をするだろうなと愚痴り、彼のことは放っておこうと言う。*2そして、賄い方に話をするように促す。と同時に、上司である料理人にあんなことを言っては賄い方自身の立場が悪くなるだろう、店の勘定も細かくチェックされるぜと注意する。

賄い方は、そんなことにはなりたくないし、そもそも料理人を怒らせたくない、自分は冗談のつもりで言ったと弁解する。ただ、面白いところを見せてやろうと、ワインの入ったひょうたんを取り出して料理人に差し出す。そうすると、料理人は、差し出されたワインをぐびぐびと飲んで、上機嫌になり、賄い方に礼を言った。

宿の主人は、酒は愛と調和のためになる、必携の品だなと大笑いする。そして、賄い方に話を促し、賄い方は応諾する。

賄い方の話

古の時代、まだ下界にいたフィーバス*3は、世界で最も血気盛んな若い騎士で、最も優れた射手だった。大蛇パイソンを射殺すなど、数々の偉業を成し遂げた。彼は歌も上手く、美しく、気高く、名誉を重んじる一つも欠点のない騎士道の華であった。

フィーバスは一羽の真っ白なカラスを飼っていた。そのカラスは人語を解せた。

さてフィーバスには愛する妻がいた。ただフィーバスは非常に嫉妬深く、騙されるのを嫌ったため、妻を監視していた。賄い方はこれには否定的である。

さてフィーバスは、妻のためにと様々なことをしたが、妻が鳥籠から逃げたいと思うようになるのも当然であった。そして妻はこっそり情夫を作り、カラスの見ている前で淫らなことをしてしまう。カラスはこれを見て楽しみ、浮かれているところをフィーバスに見咎められた。カラスは彼の妻が無名の男、価値のない男と寝床でつるんでいるのを見たとご機嫌に語る。淫らな行為も具体的に喋ってるなこれ。

それを聞くや、フィーバスは妻を弓矢で射殺した。そして楽器も弓矢も壊して、カラスを難詰する。

「さそりの舌をもつ裏切り者よ」と彼は言いました。「お前はわたしを破滅させた」

フィーバスは、怒りのために早まったことをした、証拠もないのに早まって殺してはならない、などと嘆き悲しんだ後、カラスの偽りの話に仕返しをしてやると言って、白い羽を毟り取って彼を黒くし、歌も言葉も奪い、それが子孫にも続くように呪ったうえで、外へ投げ捨てた。このようなわけで、カラスは全て黒いのである。

賄い方は、口は災いの元で、言われた方は言った方を恨みに思うという趣旨のことを述べ、教訓とするように促す。

この事態の主な責任はフィーバスにより、次点で彼の妻だが、それを認めずフィーバスはカラスを責める。この八つ当たりの心理の動きは納得できるものであり、この話の教訓は現代でも生きているように思われる。また賄い方は、折に触れてキリスト教的な視点からの教訓をよく語る。書物は我が事でないので、と謙遜をよく入れるのも特徴だ。でもなかなか教養があると思います。

次回について

ということで、カンタベリー物語』完走まで残り1話まで詰めたわけですが、その残り1話が最大最強の難物です。めちゃくちゃ長い宗教的説法で、物語要素がゼロなんだよなあ。ぶっちゃけ興味ないっす。ブログの記事を書けるかどうか心許ない。更新するにしても、だいぶ時間を空けないと無理だ。

*1:前話「錬金術師の徒弟の話」では、一行はブーフトン・アンダー・ブレーにいたはずである。でもそこから更にカンタベリーに近付いたし、距離的には一日での移動は容易なので、この話が朝というのは変に感じます。どういう行程なんだろうか。

*2:放ったらかしにして先に進もうというのか、目が覚めるまでそこに留まるというのかは判然としない。

*3:アポロンの事か?