カンタベリー物語 修道僧の物語/チョーサー
ここから岩波文庫版は下巻です。
修道僧の物語の序
宿の主人が修道僧とかわした愉快な言葉
メリベウスの物語を聞き終えた宿の主人は、自分の妻ゴッドリーフ*1のことを思い出して興奮している。宿の主人は妻の暴力的な様子に不満たらたらである。が召使の男の子を殴ると(中世サービス業の闇!)ゴッドリーフは棍棒を持ち出して来て「犬どもを皆やっつけろ。背中も骨もみな打ち砕け!」と叫ぶらしい。……私には読解力がないので、妻が夫に加勢しているのか止めているのかわかりません。また、他人が彼女の意に染まないことをすると、帰宅後に、夫に妻の仇を討てと喚き散らすらしい。大変ですな。
やがて宿の主人は、妻の話はこれくらいにして、と言って、修道僧に話を振る。ところがこれが、皮肉や当てこすりに塗れている。名前は知らない、どこの教団か知らない、お肌つやつや、さぞや立派なお立場だろう、体格も立派、もし僧院に放り込まれなければ何人も子供を作られただろう、自分が教皇なら元気のいい男には皆細君を持たせてやるんだが、自分たちの細君は僧侶とよく寝てる、あ、全部冗談ですよ。……修道僧に妻や恋人を寝取られた経験でもあるのかな?
修道僧は宿の主人のコメントを辛抱強く聞いてから、悲劇――高い地位にいた人が悲惨な境遇に落ちて惨めな末路を迎える話、と修道僧は定義する――を話すと言う。思い出すままに喋るので、順不同になるだろうとの断りも入れる。
なお、ここでローチェスターがもうすぐだという台詞がある。まだ往路のはずなので、ちょうど半分ぐらいまで来たことになるのかな。
修道僧の物語
ここに修道僧の物語、名士列伝始まる。
高い地位の人の転落を悲劇の体にならって嘆くとしましょう、運命の女神を遮ることなどできはしない、なんぴとも当てにならない繁栄を信じるな、昔からある事例を心に留められよ。まあ単なる前口上だが、それはもうやったよなという気はします。以下、触れれた人間を紹介するが、「簡単な紹介」とあるのは、転落を数行程度で簡単に紹介されただけと思召せ。
ルシファー
簡単な紹介。
アダム
簡単な紹介。
サムソン
没落前のエピソードも含めて、結構詳しく話す。
ヘラクレス
没落前のエピソードも含めて、少し詳しく話す。なおネッススは「人」とされ、焼身自殺については、毒で死ぬことを潔しとしなかったとされている。
ネブカトネザール
没落前後のエピソードも含めて、少し詳しく話す。なお当然のことながら旧約聖書準拠であり、数年発狂した後、王に復帰する。いや復権しとるがな。
バルサザール
没落前のエピソードも含めて結構詳しくやる。なお旧約聖書準拠ゆえ、彼はネブカトネザールの息子とされるが、実在性には疑問符が付く人物である。
ゼノビア
没落前のエピソードも含めて結構詳しくやる。ローマの凱旋式で見世物になったことは紹介されるが、最期については触れられていない。
イスパニアの王ペトロのこと
簡単な紹介。
キプロスのペトロのこと
簡単な紹介。アレクサンドリアを手中にしたのに、朝、寝床で殺された。
ロンバルディアのベルナボ
簡単な紹介。
ピサのユゴリーノ伯のこと
没落後の獄中での幼い息子とのやり取りが詳しく紹介される。人肉食をしたとは記載されておらず、悲しみのために息子の両腕を噛んだこと、息子がそれを受けて死んだら自分を食べてくれと言い残して死んだことが記載されている。悲惨。
ネロ
没落前のエピソードから結構詳しくやる。もちろん暴君として描かれており、近親相姦、セネカ殺害が紹介され、ローマ大火も彼による付け火とされる。最期は民衆の放棄から逃げて、庭にいた農夫二人に自分を殺してくれと頼んだことにされている。
ホロフェルネスのこと
簡単な紹介。
著名なるアンティオクス王のこと
割と詳しくやる。当然のことながらマカベア書(聖書外典。当時はどういう扱いだったのだろうか?)準拠。
アレクサンダーのこと
エピソード紹介というよりも、人となりに少し触れて、彼を賞賛するひとくさりをやる。なお暗殺説(毒殺説)に立っている。
ジュリアス・シーザーのこと
アレクサンダーの際と同様、彼を賞賛した上で、暗殺時の経緯を少し詳しくやる。
クレーソス
没落後のエピソードを少し詳しくやる。絞首刑に処されたとの前提で書かれているが、何に準拠しているのだろうか?
総評等
というわけで、まあただたひすら列挙していくだけです。物語を聞く楽しみはここにはあまりない。運命の女神がコントロールしているから仕方ない、でも悲しいことよ、と、上から目線で投げやり気味でやや皮肉な(?)物言いが付いて回るので、読後感もあまりよろしくない。
そしてこの修道僧の物語には、最後の一行で、巡礼団から矢が飛んでくるのだ。
ここで騎士、修道僧を止めてその話を終らす。
*1:宿の主人の奥さんの名前が出たのはこれが初めてでは?