不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

NHK交響楽団第1932回定期演奏会

2020年1月22日19時~ サントリーホール

  1. ウェーバー:歌劇《オリアンテ》序曲
  2. リヒャルト・シュトラウス:四つの最後の歌
  3. リヒャルト・シュトラウス交響詩英雄の生涯》Op.40

 コンサート・マスターはゲストのライナー・キュッヒル。このキュッヒルの技術が低下していて、《英雄の生涯》では惨状を呈しました。2011年に尾高忠明N響で《英雄の生涯》を聴いた際も、彼はゲスト・コンサートマスターとしてこの曲でソロを弾いていましたが、その時とソロの解釈は同じです。指揮者がコントロールしているソロ前後のテンポはほぼ無視して、早いテンポを設定し、ぐりぐりキリキリと鋭い踏み込みで切り込んでくる。細部に至るまで音符は明確に弾かれ、各楽想も異様に細かく弾き分けられて、表情もくるくる変わる。自然、ソロが表す英雄の妻は、早口でまくし立てる神経質で気の強い、ちょっとエキセントリックな人になるわけです。この解釈もなかなか面白くて聴き応えがあります。だがしかし、それもちゃんと弾けたらの話。フレーズの終りで悉く音を外すのはちょっと勘弁してもらいたい。《四つの最後の歌》でのソロは好調でしたが、《英雄の生涯》は本当にダメダメ。そろそろこの曲でコンマスやるのは止めた方がいいかもしれません。この曲は、弾けない人は弾くべきではない曲だと思います。
 ルイージ指揮のNHK交響楽団は、特にトゥッティが金属的でした。鳴りは良いんですが音が硬い。《四つの最後の歌》や「英雄の隠遁と完成」ではさすがに柔らかいサウンドに包まれる瞬間もあったのですが……。ルイージの解釈は、各声部や各楽器の違いを際立たせるものではないし、各楽想の違いを強調するものでもなく、全体の流れとうねりの中で熱狂・感傷を煽るというものだから、金属的な響きというのはちょっと具合が悪いように感じました。が、まあこれも私の席やら体調やらの問題かもしれません。会場は湧いていました。
 なおオポライスは、オペラティックな歌い口でした。声自体もそこまで美しくない。《四つの最後の歌》はヤノヴィッツの録音で馴染んだため、こういう歌唱は好みではないのですが、それでもなお、歌詞に対する感情移入や音楽の流れへの反応はとても素晴らしくて、それに声の伸びも再上質であり、こういうのも十分ありだと思わせてくれました。まあ実演で聴くとこういう感想に落ち着くことが多いんですが、オポライスはその中でもトップクラスでした。オペラ歌手は必ずしも「美声」一辺倒である必要はないということを痛感いたしました。一昨年のローマ歌劇場来日公演、行っておけば良かったかなあ。