不壊の槍は折られましたが、何か?

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ジャンルカ・カシオーリ/トリフォニーホール・グレイト・ピアニスト・シリーズ

2020年1月20日(月)
すみだトリフォニーホール:19時〜

  1. ベートーヴェン:6つのバガテル Op.126
  2. ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ第12番変イ長調 Op.26《葬送》
  3. ベートーヴェン:劇付随音楽《シュテファン王》序曲 Op.117
  4. ベートーヴェンピアノ協奏曲第2番変ロ長調 Op.19
  5. (アンコール)ベートーヴェン:ピアノ協奏曲第4番ト長調 Op.58 より第2楽章

 本名さんの指揮は初めて聴きましたが、なかなか良い。生命感ある指揮ぶりで、解釈は常套的ながら楽しめました。軽快に演奏しても全く問題のない曲を、軽快にやっていたので、より重厚な曲だったらどうなるのか興味があります。機会があれば行ってみたい。
 さて肝心要のカシオーリですが、球を転がすような美音で、タッチの粒も揃っていり大変美しい。指もよく回っていて曖昧な個所はない。というか、どの音符もくっきりと浮かび上がらせていました。それでいて、全ての音符にアンダーラインを引いた文書を見せられるような窮屈さもなく、自由で快適な空気も流れる。なかなか素晴らしい演奏だと思われたわけです。ただし時折、妙なアゴーギクやルバートを付けて、スムーズな一定の曲の流れが停滞したり折れ曲がったりする場面がありました。私にとってはこれは謎で、意識が悪い意味でこれらの箇所で揺さぶられ、演奏に乗り切れませんでした。あと、音楽作りがこれとても平面的に聴こえました。構造体としては浮かび上がってこないというか。これさえなければなあ……。なおこの特徴は、バガテルとアンコールの第4協奏曲(の緩徐楽章)ではあまり目立たない。中期や後期では一定のリズム/ペースでやらなくても違和感は生じない、ということなんでしょうか。初期作品でこれをやられると、様式感が破壊されているような気がしました。これに庄司紗矢香はヴァイオリン・ソナタで合わせるのか、と思ってしまったのも本音です。彼らの共演は実演録音問わず聴いたことがないんですが、ちょっと興味が出てきました。