不壊の槍は折られましたが、何か?

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グイド・カンテッリ/NBC交響楽団 シューベルト:交響曲第9番ハ長調《グレイト》

 1953年12月27日、ニューヨークでの録音。モノラル・ライブだがオーケストラの性質上、ラジオ放送を前提とした収録と思われる。
 基本的には常識的な解釈に基づいており、その点での特色はないが、力強さがあってなかなか素敵だ。カンタービレがよく利いている(1920年生まれなのにトスカニーニの後継者と目されただけのことはある!)けれど、そこに硬質性が見られるのは、振っているオーケストラの性質かもしれない。まあこれについては、トスカニーニ以外の指揮者が振った録音をあまり聴いていないので確かなことは言えませんが。残響があまり入っていない録音(または会場の性質)のせいかも知れませんしね。
 第一楽章はほんの少し遅め(堂々とした印象を決定づけるに当たり、この楽章のテンポ設定は大きくものを言っている)、第二楽章は速め、第三楽章と第四楽章は普通と、まだ33歳なのに意外とスピードで聴衆を煽り立てることをしていない。ただ音自体は相当熱いようで、フィナーレではまだ音が鳴り終わっていないのに拍手が始まってしまう。演奏自体が相当エキサイティングなものに(実演では)聞こえたということではなのでしょう。力感満点というのは、録音でもちゃんとわかりますし。ただし細部のニュアンス付けは、それほど魅力的・蠱惑的には行っておらず、第二楽章や第三楽章トリオは純粋にまっすぐな歌で押していて、寂寥感その他には乏しい。それが不満ってわけじゃなくて、ちゃんと押し切れているのはカンテッリの才能を証明するものだと考えます。
 カップリングは、1953年1月3日の《未完成》と、1952年2月2日のヴェルディ:《運命の力》序曲である。どちらも《グレイト》と同傾向の演奏だが、《未完成》だとさすがにまだ味わいが不足しているように思われる。しっかりした力強さは感じられるので、聴いてられないとかそんなことはないですが。そして《運命の力》はカンテッリの本当のレパートリーという感じがするぐらい、曲想と芸風がピタリとはまっている。テンポが若干遅めなのは意外でしたが。彼が1956年の航空事故に遭わなければ、少なくともジュリーニ以降のイタリア人指揮者の国際的キャリアは、結構な影響を受けていたのではないかななどと思う。