不壊の槍は折られましたが、何か?

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カール・ベーム/シュターツカペレ・ドレスデン シューベルト:交響曲第9番ハ長調《グレイト》

 1979年1月、ドレスデンのクルトゥーアパラスト(文化宮殿と訳すのだろうか?)でのライブ録音。84歳なのにちゃんとドレスデンに出向いて演奏会を開いている辺り、ザルツブルクに呼びつけて共演するだけの指揮者とは違って正面から仁義を切っている感じがします。指揮者の素行は、演奏内容とは無関係に考えるべきですし事実そうするよう心掛けてはいるんですが、やっぱり人間としての印象の良し悪しそれ自体は判定しちゃいますよね。
 解釈は基本的にベルリン・フィルの演奏と変わらないのですが、こちらの方はよりスムーズに流れるようになって拍節感が薄まっております。よってブロックを積み上げて巨大建築物を作るという風情は、かなり弱まっております。これはライブゆえかも知れないし、オーケストラの性格の違いかも知れない。どちらが好きかはそれこそ人によるでしょうし、私自身、どっちも魅力的で困ってしまうんですが、第二楽章前半と第三楽章トリオはこちらの方が好み。第二楽章を前半に限定したのは、全体的にテンポが速まっており、第二楽章後半にわずかにせかせかした感覚が紛れ込んでいる気がするからです。もちろんこれはこれでアリで素晴らしいとは思うんですが、あくまで好みということであれば、ベルリン・フィルとのゆったりした歩みが好きだったりしますです。そしてこのテンポの速さは、両端楽章で効果をあげており、拍節感が弱まっているのと相俟って、ベルリン・フィルとの録音とはまるで違う感触を聴き手に与えるのだ。演奏が進みにつれて徐々に熱くなって来る感もあって、いい意味でのライブ感にあふれている。シュターツカペレ・ドレスデンも、相変わらず味わい深い音色であるが、コリン・デイヴィス盤はもちろん、ブロムシュテットとの録音と比べても更に響きが引き締まっている。これは指揮者による差でもあろうし、会場の差でもあろう。この録音会場クルトゥーアパラストは、ルカ教会よりも響きがデッドであり、サウンドがより直截なものとなっているのである。
 なおこういったライブ録音をスタジオ録音と比較して、ライブ録音の方を気に入った人は、「ベームはライブの人だ」とか何とか言いがちですけれど、そもそもライブの人ではない音楽家なんて数えるほどしかいない(グレン・グールドは明らかにライブの人じゃないよなあ、とか)。大量のスタジオ録音を残したカラヤンやマリナーといった指揮者も、ライブでは興が乗ってたりします。そういう当たり前のことを偉そうに言うのは恥ずかしいから止めていただきたい。