不壊の槍は折られましたが、何か?

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ヴィルヘルム・フルトヴェングラー/ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団 シューベルト:交響曲第9番ハ長調《グレイト》

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 1951年11月〜12月、西ベルリンのイエス・キリスト教会でのセッション録音。例の有名な録音である。
 1942年ライブはもちろん、1953年のライブと比べても音楽の挙動は落ち着いている。加減速は控えめ、テンションも低め。その代わり、非常に雄大な音楽が展開されている。巨大な風景画を見上げたり、山の上から景色を一望したりするかのような演奏です。悠然とした運びはなかなか魅力的で、第二楽章などは特に問題ないんですが、リズムの取り方がもっさりしていて、テンポが速い箇所になればなるほど、音楽がもたついているように感じられてしまう。あとアンサンブルに締まりがないです。フルトヴェングラーにやる気がなかったのではないか。音楽の運びには学ぶべきところが多いんですけどね。個人的には、1953年ライブの方が好きかなあ。あっちの方が音がいいような気がするし。ぶっちゃけると、このセッション録音に私はあまり価値を見出せません。ドターッとだれた、鈍くて仕方のない糞だと思う次第です。
 この音盤では、シューベルトよりも、カップリングのハイドン交響曲第88番《V字》の方が圧倒的に素晴らしいと思う。ザンデルリングの時に書いた《大指揮者が振る小交響曲》の魅力がいっぱい。もちろんザンデルリングフルトヴェングラーでは芸風が全く違うんで、同じような演奏になっているという意味じゃないですが、好きな曲を本当に楽しんで演奏している、という感興がたまらない。基本的には元気溌剌な演奏ですが、第二楽章などで憂いに満ちた表情を浮かべてみたりと、手練手管に満ちていて、聴き手としても大変楽しい。《グレイト》と異なって、ベルリン・フィルの音が引き締まっているのも嬉しいところです。