不壊の槍は折られましたが、何か?

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アルトゥーロ・トスカニーニ/フィラデルフィア管弦楽団 シューベルト:交響曲第9番ハ長調《グレイト》

 1941年9月16日、トスカニーニフィラデルフィア客演時のセッション録音。なお当初は録音に失敗したとされ、長らくお蔵入りだった。でも聴いてみると時代の割にはいい音で録れており、とても失敗とは思えない。後代で音源を何らかの手段でいじったのかしら。
 演奏は、トスカニーニの鋭い譜読みとフィラデルフィア管弦楽団の美麗な音響が合わさった、本当に素晴らしいもの。基本的な解釈は、1947年と1953年のNBC響との録音と大きな違いはないが、フィラデルフィアトスカニーニの指示に従いつつ、美感を絶対に失わないように麗しく演奏しているのが特徴となっている。NBC交響楽団との2種類の演奏では、程度の差こそあれ「爺さんブチ切れてるな」という印象が先に立ったんですが、このフィラデルフィア盤は怒りのイメージがなくなっており、代わりに華麗な感興が前面に出て来ていて素敵である。象徴的なのは急速なスケルツォで、このテンポと直線的カンタービレで、よくここまでまろやかに奏楽できるなと感じ入りました。これが、オケの面従腹背の結果なのかトスカニーニの意図通りなのかはよくわかりません。リズム処理がNBC響に比べて若干甘いのは、トスカニーニとオケのせめぎ合いの証拠と捉えるべきかも知れないけれど。しかし収録されている音楽が素晴らしいことだけは間違いないです。
 あと先述の通り録音が年代の割には大変素晴らしい。ふっと力を抜いたところとか、細かい抑揚が上手く録れています。第二楽章の、すっきりした流れの中で行われる精緻で細かい表情付けには感心しきりでしたが、これができるのもこの良質な録音があってこそ。当時の関係者と、リマスタリング関係者には感謝申し上げたい。