不壊の槍は折られましたが、何か?

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ヴィルヘルム・フルトヴェングラー/ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団 シューベルト:交響曲第9番ハ長調《グレイト》

Wilhelm Furtwangler(The Complete RIAS Recordings)

Wilhelm Furtwangler(The Complete RIAS Recordings)

  • アーティスト:V/C
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 1953年9月15日、ベルリンのティタニア・パラストでのライブ録音。RIAS録音集成の1枚である。
 あの1942年盤と比べたら落ち着いており、テンポが強烈に変転する場面ももちろんあるのだけれど、寛いだ風情や伸びやかな表情がそこここに頻出し、呼吸感も深まった。メロディーの歌わせ方に《未完成》よろしく浮遊感があるのも特徴で*1、ドラマティックな要素は十分に残しつつも、夢見るような感傷性が強く出ているのが特徴となっている。1942年盤ではほぼ感じ取れなかった雄大さも加わった。1942年はもっと必死でもっと硬質で、(変化はめちゃくちゃ付けていたけれど)感情表現としてはストレートであった。しかし11年後、歳をとっただけではなく、国・社会・ベルリンの状況が全く変わった今、同じような表現はできなくなった、ということなのかも知れない。フィナーレでも煽るだけじゃなくなっていて、もっと多様な表情が付与されているのである。エキサイトできる演奏ではないが、代わりにより落ち着いて聴けます。至芸感が強いとでも言おうか。ベルリン・フィルが好調でほとんど崩れていない(出で若干ずれるのは、指揮者が指揮者だから仕方ない)こともこの演奏の価値を高めている。
 なお、テンポを加速させたり減速させたりする箇所が、1942年録音とほぼ同じなのは、フルトヴェングラーが意外と即興的ではないことを示しているようで、興味深かったです。先述の通り、受ける印象がほぼ別物なのも、なかなか面白い。演奏行為というものについて考えさせられます。

*1:なおこのCDのカップリングである同日の《未完成》にはそこまでの浮遊感はなく、暗さに傾斜した演奏でした。