不壊の槍は折られましたが、何か?

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ハインツ・レーグナー/ベルリン放送交響楽団 シューベルト:交響曲第9番ハ長調《グレイト》

 1979年6月11日〜15日、東ベルリンのイエス・キリスト教会におけるセッション録音。
 オーケストラは低音に支えられたピラミッド型のサウンドを堅持する。音色は暗めであり、アンサンブルとして統一感が高く、まるで一つの楽器のように鳴るのも特徴だ。冷戦時代、音楽ファンはこういう音を「いぶし銀」というクリシエで表現していたのだと思います。このベルリン放送響をもって、指揮者レーグナーはふくよかな音楽作りを志向する。やや遅めのテンポを採用し、落ち着いて各楽想を魅力的に描出することに意を用いておるわけだ。どっしり構えているため、スケールがなかなか大きい。リズムの弾みは強調されていないものの、若干もっさり気味ながら推進力がちゃんと生まれているのが上手いところである。楽曲は締め上げられず開放的に鳴り響き、シックな質感を維持したまま、演奏家たちは雄大な音楽を聴き手に提示してくれる。湧き立つような感興には乏しいが、代わりに大変に豊饒な世界が広がっている。これまで聴いて来た音源の中では、ザンデルリング盤に近い演奏ではないだろうか。ザンデルリングをより《普通》にしたらこうなるんじゃないかな。
 というわけで素晴らしい演奏なのだが、オーケストラの自発性・積極性はやや弱いかも知れない。どうも落ち着き払っているというか、澄まし顔過ぎるというか……。指揮者の問題か? オケの性格か? それとも、東ドイツという統制国家が人心に及ぼす影が忍び込んでいるのだろうか?