不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

東京交響楽団第595回定期演奏会

18時〜 サントリーホール

  1. J.S.バッハシェーンベルク編曲:プレリュードとフーガ 変ホ長調BWV552
  2. ラヴェル:左手のためのピアノ協奏曲ニ長調
  3. (アンコール)カッチーニ吉松隆編曲:アヴェ・マリア
  4. ストラヴィンスキーバレエ音楽ペトルーシュカ》(1947年版)

 一曲目のバッハ/シェーンベルクは非常に立派な演奏。一つのモチーフの中でも、楽器編成をちょこまかいじるシェーンベルクの微細な音色制御をしっかり表現していました。ノイホルトは職人ですなあ。
 二曲目の協奏曲は……舘野泉はもう「ひびの入った骨董」ではなく、「割れた骨董」である。リズム処理は甘いし、ミスタッチは多い。恐らく卒中の後遺症でしょう、高音のキー(つまり右側)の方に身体を向けるのが難儀そうで、高音の動きが微妙にぎこちない。オーケストラの伴奏と音を合わせるのにも、単なる聴き専の私ですらはっきりわかるレベルで用心深く弾いていた。もちろん、ジャズの影響を云々されるこの曲の真の姿を描き切れるはずもない。もう彼にはそういうのは無理なのです。でも音楽とは不思議なもので、あまり伴奏に注意しなくてもよい箇所(カデンツァ的な所とかね)では、深い呼吸で本当に味わい深い音楽をやっていました。遅い箇所とかもう最高です。それが極点に達したのはアンコールのカッチーニで、これはもう感動的な演奏だったと思います。
 後半の《ペトルーシュカ》は、重心を過剰なぐらい低く設定して、テンポやバランスなど、全ての要素をかっちり管理しようとした演奏。この曲にちらつく前衛性を丸ごと排除した演奏で、ここまでオケの「音楽」を掌握したノイホルトの手腕が光りますが、棒自体は割とぶっきらぼう、おまけに楽団員の生理を無視した側面があって、オケが走りたくてうずうずしているような不穏な空気も感じさせました。金管中心に、細かくないミスもちょっと多かったかな。ここしばらく好調だった東響の、久々のハズレだったと考えます。まあたまにゃこうなりますよね。