不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

シプリアン・カツァリス  ピアノリサイタル

19時〜 浜離宮朝日ホール

  1. リストへのオマージュ 即興演奏
  2. リスト:葬送前奏曲と葬送行進曲S.206
  3. リスト:暗い雲S.199
  4. リスト:ノクターン《眠られぬ夜、問いと答え》S.203
  5. リスト:詩的で宗教的な調べS.173より《孤独の中の神の祝福》
  6. リスト:ハンガリアン狂詩曲S.244第3番、第5番、第7番
  7. リスト:2つのチャールダーシュS.225より《チャールダーシュ・オプスティネ》(カツァリス編)
  8. ショパン/リスト:6つのポーランドの歌op.74
  9. リスト:3つの夜想曲第3番変イ長調S511/R211《愛の夢
  10. リスト:ピアノ協奏曲第2番(独奏版 カツァリス編曲)
  11. (アンコール)Carlo Balzaretti:2011年3月11日(日本初演?)
  12. (追悼演奏)ショパン:ピアノ・ソナタ第2番変ロ長調op.35より第3楽章《葬送行進曲》

 リサイタルの副題は「リスト生誕200年に寄せて〜オールリストプログラム」、そして、室内楽コンサート同様「東日本大震災福島原発被災者の為のチャリティーコンサート」でもあった。カツァリスは当初から地震放射能も怖くない、絶対日本に行くと公言してくれており、しかもそれがヨナス・カウフマンアンナ・ネトレプコ、そしてジョン・ウィリアムス(ギター)といった人々とは異なって、リップサービスではなかった。嬉しいことである。
 さて演奏。カツァリスは(変なことは色々するが)極めてスマートに鳴らすタイプであり、音楽の進行はサクサクしたものである。よってあの複雑なリストが本当に聴きやすい音楽として鳴り響いた。どの音符もはっきり聞こえてくるけれども、それが交錯して混乱したり混濁したりすることは全くない。本人も実に楽しげに弾いていて、演奏中に時折「どうだい、今の音は良かっただろう?」と言わんばかりにニコニコと客席を見たりする。リラックスできる素晴らしいリサイタルであったと思う。なお最後の一人協奏曲は、とてつもなく大変(当たり前ですが)な割にはあまり聴き映えしないという曲。音が多いのはわかるが、それが客席を煽る方向に働かないのね。
 アンコールは二曲。ご覧の通り、カツァリスなりに示してくれた東日本大震災への弔意である。曲を丁寧に英語でアナウンスするカツァリスのサービス精神には感服いたしました。Balzarettiは奥様が日本人だという別にどうでもいい情報もくれたりしましたが。さて残念なことが一つ。葬送行進曲は主部一回目は鎮魂、中間部のたゆといは筆舌に尽くしがたいほど儚げで哀しく、そして主部二回目はそれこそ地震津波の直接描写あるいは神への怒りを表現しているのかと思うほど強烈なフォルティッシモで弾かれて圧倒されたわけですが、カツァリスが don'nt applause と言っているのに一拍だけ手を叩いた人がおり、カツァリスがシーッと口に指を当てて客席を向くと、なんとクスクス笑う女性たちが後方に出てしまったのである。あのエリアからは、2日前に楽譜が届いたところだというの演奏直前にカツァリスが腕組みして楽譜を睨んでいる際にも、クスクス笑いが漏れていた。3.11だと言われているのにこの始末である。箸が転んでも可笑しい年頃など過ぎているだろうに、一体全体どういう頭をしているのか。カツァリスにもBalzarettiにも、そして誰よりもあの災害で亡くなった全ての人に対して失礼だと思うわけである。あの日、津波に呑まれて死ぬべきはあなた方だったのである。