不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

東京都交響楽団第717回定期演奏会

19時〜 東京文化会館大ホール

  1. プロコフィエフ:ヴァイオリン協奏曲第2番 ト短調
  2. ブルックナー交響曲第2番 ハ短調 (ノヴァーク/第2稿・1877年版)

 前半の協奏曲からして、先月とはオケの鳴りの質が違っていた。もっと整っていたのである。もうちょい鋭角的なリズムを刻んでいただけると最上級のオケになると思うが、まあそれは追々達成されるか、そこまではインバルが求めていないかのどちらかであろう。実際、インバルは高いテンションでずしずし進行する音楽をやる指揮者なので、まあ予想の範疇ではあるが、しかし指揮者が違うとやっぱり鳴りが違うんですよね驚きました。
 ソリストのブラッハ・マルキンは、アメリカ人の女性ピアニスト。技術的には十分な水準を保っていたが、表現上の冒険を全くせず正調に落ち付いた音楽で貫徹していたので、正直申し上げて若干退屈であった。曲想に比して真面目過ぎるんだよなあ。どういう曲かのパースペクティブは明快に示してくれたので、悪い演奏ではなかったと思うけれども。
 後半はインバルお得意のブルックナー。細部まで神経の行き届いた演奏で、特に金管に関しては、フィナーレにクライマックスを持って行く演奏。スケルツォはもっと弾けて良いかも*1なんて思いながら聴いてましたが、アンサンブルの妙味を堪能。特に弦は良かった! 初期交響曲から、この作曲家は十分に敬虔な響きを作り上げていたのだなあと納得いたしました。第二楽章で若干木管のアンサンブルが崩れ気味になる箇所が散見されましたが、充実し明瞭、という演奏の雰囲気は維持されていたので特段気にはなりませんでした。ソリッドな印象が強かったのは、会場がデッドな東京文化会館だったからかな。客席も概ね静寂を保ち、ブルックナー・パウゼをしっかり味わうことができたのも吉。なおインバルはブルックナーだと初稿に拘る人なんですが、第2番は稿がとりわけ錯綜しているためか、それとも単純に好みなのか、通常の版の一つ(「通常」と言っておきながら「の一つ」と断らざるを得ない辺りがこの曲の楽譜選択上の難しさでしょう)を使用しております。
 色々ありまして、評判の良いインバル+都響の実演を聴くのは今日が初めて(!)だったんですが、期待通りの素晴らしさでした。あーこれは通っちゃうかも。

*1:主部のリズムは若干鈍く、加えてトリオではインバルがずっと鼻歌を唸りながら振ってたんですが、どうも弦のうねりよりも鼻歌の方がこぶしが利いていて、指揮者はもっと「やらかし」たかったんじゃないかなと愚考する次第です。