不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

シマノフスキ弦楽四重奏団&シプリアン・カツァリス 東日本大震災・福島原発被災者の為のチャリティーコンサート

19時〜 浜離宮朝日ホール

  1. シマノフスキ弦楽四重奏曲第2番
  2. ドヴォルザークピアノ五重奏曲第2番op.81
  3. ショパンピアノ協奏曲第2番室内楽版)
  4. (アンコール)シマノフスキ:タランテラ

 まずもってシマノフスキQが素晴らしい! ゴム鞠が弾んでいるような音を、皆が得手勝手に出している――ように思わせておいて、ビタビタ音が合っているという見事さ。フーガもエレジーも圧倒的なまでに見事。音色のパレットは若干種類が少ないかなと思いましたが、ここまで見事ならもう何も言えねえ……。なおこのクァルテットも、四人が完全に同格で演奏している団体。最近はやっぱりこういうの多いんですねえ。全員が、踊っているんじゃないかと思うほど激しい身振りで弾いていたので、視覚的にも面白かった。なおピアノ協奏曲でのみ、ストバイとセカバイが交代してました。
 カツァリスも素晴らしい。ドヴォルザークではかなり控え気味で、弦楽四重奏を「立てる」演奏でしたが、後半のショパンでは一点、強靭かつクリアな演奏で弦を圧倒してしまう。やはりピアノ五重奏曲室内楽だが、後半は、いかに室内楽に編曲されているとはいえ、協奏曲なのだという気概が見えました。しかしどちらのスタイルでも素晴らしかったのが凄い。カツァリスの実演は初めてですが、非凡な人です。協奏曲のみ登場のコントラバスは、シマノフスキ・クァルテットの中にしっかり溶け込んでました。
 当夜の演奏は、ネタ要素も満載。カツァリスはドヴォルークで舞台に出て来た時に歩きながら手を振って会場に挨拶。楽章間でも譜めくりの女性と若干喋ったりしますし、ショパンでは時折、弾いてない瞬間or弾いてない方の手で、指揮っぽい動きをしてました。コントラバスが良いピツィカート刻んだ時は親指立てたな。そしてショパンを弾き終わった後は、すぐに譜めくりの女性をハグ(その後、他の4奏者にもハグ)。そしてカーテンコールで「ミナサンコンバンハ。ワタシニホンゴシャベレマセン」と挨拶した後、英語でシマノフスキQが良い友人であること、ポーランドは偉大な音楽家が多いこと(ショパンショパンショパンとブツブツ言って笑い取ってました)、アンコールにシマノフスキのタランテラを弾くと紹介し(曲目紹介後、「OK?」と会場に確認。NOと言われたらもう一回言うつもりだったのかしら)、舞台を去って行きました。その後シマノフスキQが着席しいよいよ弾こうとなった時に、会場で携帯電話の着メロ(9時の時報かも)が鳴り響く。珍妙なタイミングに笑いが漏れる会場で、チェロの男が「今のはシマノフスキじゃない」と日本語で喋って爆笑とってました。イントネーションも発音も完璧だったなあ。言った後は彼、得意満面でござった。
 どの曲も、情緒に沈まず音の成り立ちを明確にさし示していくような演奏で、楽曲の陰陽をいずれもクリアかつ万全に抽出していたのが印象的。クァルテットとピアニストの方向性が一致していたということでしょう。息もぴったりでした。会場の雰囲気がとても良く、一曲目が終わった時点で結構沸いてました。演奏者も皆さんご機嫌。こういう楽しげな雰囲気の中でシマノフスキが鳴らされたというのはなかなか珍しいのではないかと思います。うん、良い演奏会だった。