不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

NHK交響楽団第1710回定期公演

15時〜 NHKホール

  1. メシアン:トゥランガリーラ交響曲

 ゆったり構えた演奏で、恐らく性愛込みで「愛」と言っているのであろうトゥランガリーラ交響曲の「愛」を、全て慈愛に変換しつつ、カラリと晴れて乾燥した夏の地中海気候地域の夜、みたいな感じに仕上げていた。弱音部(特に第6楽章のそれ!)の美しさと静謐な佇まいは筆舌に尽くしがたい。一方で、第5楽章に代表されるような、強音&勢いの良い所では、音楽の密度が散漫になってしまったように思う。むろんちゃんと鳴ってはいるのだが……。NHK交響楽団は健闘しており、大きな過誤なくこの難曲を乗り切っていた。見事である。
 プレヴィンのまったりした指揮の直接の統制下にいない二人のソリストも見事。原田節はもはやスペシャリストなので何も言うことはないが、今日は児玉桃の奏楽が大変見事であったことを明記しておこう。彼女も特段変なことをしないピアニストなので、管弦楽オンド・マルトノとの息はぴったり、実に真っ当に楽しめたわけですが、巨大管弦楽に埋没せず一歩も引けを取らない存在感を示してピアノ協奏曲状態でございました。
 トゥランガリーラ交響曲はもっと激しい曲だと思っていたし、それが間違いであるとは未だに思っておりませんけれど、こういう古典的な均衡美を備えることも可能だとわかったのは収穫でありました。アンドレ・プレヴィンはかなり足が弱っている模様で、乳母車状の歩行器を持っての登場。低いポディウムから降りるのにも大変そうでした。歩行器が通るスペースを舞台前方に設けるべく、オケは通常よりも舞台奥側にいましたね。来日は今回が最後かもなあ。