不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

サルビアホール・クァルテット・シリーズvol.1

19時〜 サルビアホール

  1. ハイドン弦楽四重奏曲第38番変ホ長調op.33-2《冗談》
  2. チャイコフスキー弦楽四重奏曲第3番変ホ長調op.30
  3. ベートーヴェン弦楽四重奏曲第9番ハ長調op.59-3《ラズモフスキー第3番》
  4. (アンコール)チャイコフスキー弦楽四重奏曲第1番ニ長調op.11より第2楽章《アンダンテ・カンタービレ

 サルビアホール初体験。100席しかないこじんまりした客席に、その割には広めの舞台と高めの天井。アコースティックも豊かではないが悪くない。やるとすれば明らかに室内楽だと感じられた次第である。
 クァルテット・エクセルシオも録音・実演通じて本日が初体験。1992年の桐朋学園在学時に結成の、常設の弦楽四重奏団である。堅実にして洗練された芸風が持ち味のようで、無色透明まるで水の如しの透明度の高い演奏を繰り広げてくれた。その半面、どの曲も同じように聞こえるし「このグループでなければ」があまり感じられない、弱点というか物足りなさはあった。音色もやや硬質だったこともあって、一番成功していたのは、楽曲構成が一番はっきりしているベートーヴェン。反対がチャイコフスキーで、いかにもロシアorスラブでございといったメロディラインの奔放さをスルーして、あくまできっちり聴かせようという意識が強過ぎたように思われる。これはアンコールも同様で、本当か嘘かはさておき、この楽章で何故トルストイが涙したかは納得させてくれない仕上がりだったように思う。ハイドンも意識的に柔らかく弾いていたとは思ったが、もうちょっと遊んでくれても良かったと思うんだ。副題の由来である「終結の引っ掛け」を有したフィナーレのユーモアも、真面目過ぎて若干不発気味であった。ただし、演奏がまずかったとまでは言えない。どの曲も非常に立派な演奏であり、かつ首尾一貫していたことは間違いなく、加えて楽曲にしっかり向き合ったという実感を残してくれた以上、非凡な演奏であったことは確か。メロディをもっと伸びやかに表現してくれた方が好み、という瞬間も多々あったことは事実ですが、アンサンブルとしてのまとまりが良かったことも特筆すべきでしょう。第1ヴァイオリンが前面に出てチェロが下支え、第2ヴァイオリンとヴィオラは添えるだけ(でもハーモニーの要)、という感じではありましたが、一体感は強かった。個人的に今日一番ハッとしたのは、《ラズモフスキー第3番》第1楽章における、序奏を終えた直後の主部の最初の一音目。ここで見事に空気感が変わっていて素晴らしかったです。
 アンコール前に第1ヴァイオリンの西野ゆか氏が述べていたところによると、サルビアホールに来てみたら思った以上に小さなホールだったのでヘヴィーにならないよう弾き方をいつもと変えてみたが、演奏が進むにつれて熱が入ってしまい、最終的にはいつも同様の(そしてこのホールにしては大音量と彼らが判断した)演奏に戻ってしまったようである。言われてみれば確かに後半に比べると前半は音量が抑え気味でした。
 というわけで、それなりに満足して会場を後にした次第。