不壊の槍は折られましたが、何か?

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新日本フィルハーモニー交響楽団第484回定期演奏会

14時〜 サントリーホール

  1. ベートーヴェン:序曲『レオノーレ』第3番ハ長調op.72b
  2. アイヴズ:ニュー・イングランドの3つの場所(管弦楽曲集第1番)
  3. ショスタコーヴィチ交響曲第5番ニ短調op.47

 メッツマッハー最高! 解釈はかなりの正攻法だが、テンションが高い上に適度な弛緩もあって安心して聴ける。……と思って油断していると、たまにテンポやリズムでくすぐりを入れて来て、ハッとさせられる瞬間も完備。手練手管が見事ですね。オーケストラから引き出すサウンドは、重厚だけれども非常に柔軟で、これまた素晴らしい。こういう指揮者が新日本フィルを気に入ってくれているっぽいのは嬉しいことであります。また新日本フィルも指揮者の要求によく応えていました。ハーディングほど「オーケストラを能力目一杯のところまで追い詰める」解釈ではないですが、リハーサルは厳しそう。
 個人的に一番面白く聴いたのは、冒頭のベートーヴェン。これは本当に見事な演奏で、低音から積み重ねるいわゆるピラミッド型のサウンドをオーケストラから引き出す(そしてこれ自体は他の曲でも同じ)と共に、メリハリの付いた活力溢れる演奏を披露。メッツマッハーはコンテンポラリーのイメージが強い指揮者ですが、こういうのを聴くと、ああ凄くドイツだなあと思うわけであります。交響曲も聴いてみたくなりました。まあそれを言い出すなら来週のブラームス1番も聴いてみたいですが、予定が合わない。なお舞台裏のトランペットはRCブロック後ろの扉から吹かせてましたね。
 アイヴズも素晴らしい。情景描写を凄く的確かつ楽しそうにやっていて、オーケストラもよく鳴ってました。混迷を極めるスコアなんだろうと思いますが、それを全く感じさせない辺りが見事。そして後半のショスタコーヴィチは、純音楽的とか昔ながらの「ソ連による抑圧云々」以上に、曲の内面に込められた作曲者の個的な想いに焦点を当てていたと思います。第三楽章の美しく気高くそして哀しげな祈りが最高。あれが今日の演奏のハイライトだったな。お客さんはどの曲でも大いに盛り上がってました。
 なおメッツマッハーは指揮棒を持たず、また右手も「指揮棒を持っているかのような形」にはせず、基本的にはずっと手を開いて指揮していたのが印象的。指揮台を所狭しと動き回る情熱的な指揮ぶりですが、音楽のフォルムは全く崩れていない。視覚的にも楽しい、良い指揮だったと思います。また来てね。