不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

NHK交響楽団第1706回定期演奏会

15時〜 NHKホール

  1. シベリウス:ヴァイオリン協奏曲ニ短調op.47
  2. ドヴォルザーク交響曲第9番ホ短調op.95《新世界より

《新世界》は名演。表題性あるいは物語性には頓着せず、純粋に音楽にのみ向き合った演奏であったが、フレージングやアクセントなど、細かい所まで指揮者の指示が行き届いており、それをオーケストラも自分たちの音楽としてしっかり咀嚼したうえで音にしていたように思います。全体的に勢いもあり、快速テンポ設定もあって溌剌とした表情で魅せてくれました。でもむろん、メロディーに浸らせるところはたっぷり浸らせてくれます。第1楽章や第2楽章での、緊張感を維持したままスッと伸びていく旋律線は、とても美しく響きまた佇まいとして凛としており、涙腺を刺激されるクラスの演奏であったように思います。スケルツォはやや鈍かったように思いますが、まあこれはこういう曲趣におけるN響の――というよりも日本のオーケストラの弱点だからなあ。でも全然悪くはなかったと思いますよ。トリオの仕上がりも素晴らしかった。そしてフィナーレは、ある種、山を仰ぎ見るかのような敬虔さ峻厳さを見せて、圧倒的でありました。金管が大健闘を見せていたのも特筆しておきたい。まるでブルックナーのようだと思った瞬間も何度もありました。終演後は当然ブラボーの嵐。1927年生まれ84歳のマエストロはとてもお元気そうで安心しました。
 なお私は2009年のブロムシュテット指揮チェコ・フィルの来日公演で《新世界》聴いているんですが、たぶんその時よりも感動的な演奏になっていたと思います。恐らくブロムシュテットは伝統の手垢が付いていない新鮮な《新世界》を希求していて、それを実現するにはチェコ・フィルよりもN響の方が良かったということなのかも知れません。勝手に突っ走ることが少ないオケであることも+に働いたか。チェコ・フィルとN響だと、技巧的にはそれほど差がないしね。
 前半のシベリウスでもN響は出来上がった演奏を展開、ソロを務める竹澤恭子も、第一楽章とフィナーレの難所で音を外す瞬間も散見されましたが、どっしりと構えて一音一音を大切に、楽曲を堪能させてくれる集中力と求心力の強い演奏を披露してくれました。急な代役に見事に対応されたということで、今度はぜひ、最初からキャスティングされて準備万端の演奏を聴きたく思います。
……というわけで、演奏会自体は大変素晴らしかったのですが、本来予定されていたレオニダス・カヴァコスは、「健康上の理由」で来日をキャンセルし、竹澤女史にお鉢が回ったという経緯があります。なおこの交代がHP上で発表されたのは9月8日午前(日本時間)でしたが、カヴァコスは同じ日の9月8日夜(現地時間)にシンガポールシンガポール交響楽団シベリウスのヴァイオリン協奏曲を弾いています。8日時点で竹澤女史が代役を務めることも同時発表されていたので、キャンセルする意向を日本側に伝えて来たのは明らかにその数日前でしょう。あれ? じゃあなんで貴方8日にシンガポールにいるの? ヴァイオリニストの健康とは奇々怪々ですね。
 Leonidas Kavakos, are you fucking with Japan?