不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

フェスタ サマーミューザ KAWASAKI 2011 神奈川フィルハーモニー管弦楽団

19時〜 テアトロ・ジーリオ・ショウワ

  1. マーラー交響曲第9番ニ長調

 新日本フィルからゲスト・コンマスの崔文洙を迎えた本日の演奏は、クールヘッドにホットハートの典型例であった。すっきりした造形による純音楽的なアプローチが基本で、オケが出す音も(ホールのデッドな響きもあって)贅肉を削ぎ落した素朴なものだったが、全ての音符に力が入っていて大変に情熱的。細部にはポカもあったし、第一楽章は最後のクライマックスで弦が大事故起こしかけてましたが、楽団員もやる気十分、気合いの入った演奏を披露してくれました。第一楽章はもっと沈み込むように演奏されるのが普通だと思うんだけれど、今日は最初から最後まで本当にダイナミック。
 金聖響は、数年前に東響振って《復活》やった時よりも減量したとおぼしく、腰の調子も良いのか、動きが激しい激しい。第一楽章の中盤からはずっと指揮棒なしで舞うように指揮し、各パートに細か過ぎるほど指示を出す。マーラーが複雑なスコアに込めた楽想の全てを開陳せんと、テンポこそさほどいじりませんでしたが、サウンド的には歪になっても構うものかと果敢に楽想を掘り起こしていました。木管金管も、結構ミスはあったけれど指揮者に応えてよく頑張った! 第二楽章と第三楽章の前のめりのリズム、そして気迫のフィナーレと、解釈面では一分の隙もなかったと思います。そして最後の最後では、音が弱くなって行くにつれて徐々に照明を落として行く演出付き、ヴィオラの音が消えて行くと会場はもはや薄暗闇。そのまま90秒ぐらい固まってたかな。ただ、会場の聴衆はこの沈黙を静寂をもっては迎えず、何人かはずっとゴソゴソしていましたね。そして照明がまだ暗いままなのに、待ち切れなかった人がバチバチ拍手を始めてしまったのは、ちょっと残念でした。
 というわけで、大変な熱演で満足すべき仕上がりではあったんですが、神奈川フィルがややヘボであったのは間違いないところだと思う。果敢に音を出す姿勢には大いに好感を抱きます。しかし、各奏者が非常に頑張っているだけで、聴き合うという点では弱いと言わざるを得なかったように思います。ホール・座席・指揮者の解釈など様々な要素が絡むので、一概にオケの能力云々には直結しないかも知れませんが、ハーモニーそのものに感心した瞬間はほぼ絶無でありました。金聖響も、もうちょっとオケを信用して《任せた》方が良かったんじゃないかという局面も、特に弱音部やらソロの場面には散見されたように思います。でも良い演奏会だった! オーケストラの実力をもっと正確に把握したいところですが、さて次に聴けるのはいつになることやら。