パスカル・ロジェ ピアノ・リサイタル 〜ショパンとフランス印象派〜
19時〜 東京文化会館小ホール
- フォーレ:ノクターン第1番 変ホ短調 op.33-1
- ショパン:ノクターン第13番 ハ短調 op.48-1
- プーランク:ノクターン第1番 ハ長調
- ラヴェル:「高雅で感傷的なワルツ」より3つのワルツ
- ショパン:ワルツ第7番 嬰ハ短調 op.64-2
- ドビュッシー:マズルカ ロ短調
- ショパン:マズルカ第25番 ロ短調 op.33-4
- ドビュッシー:「12の練習曲」第1巻より「6.8本の指のための練習曲」
- ショパン:練習曲第1番 変イ長調「エオリアンハープ」op.25-1
- ドビュッシー:「12の練習曲」第2巻より「11.組み合わされたアルペッジョのための練習曲」
- ショパン:練習曲第12番 ハ短調「革命」op.10-12
- ドビュッシー:バラード
- ドビュッシー:「前奏曲集」第2巻より 「妖精はすてきな踊り子」
- ショパン:前奏曲第15番 変ニ長調「雨だれ」op.28-15
- ドビュッシー:「前奏曲集」第1巻より 亜麻色の髪の乙女、野を渡る風、西風の見たもの
- ショパン:前奏曲第6番 ロ短調 op.28-6
- ドビュッシー:「前奏曲集」より「月の光がふりそそぐテラス」(第2巻)
- ドビュッシー:「前奏曲集」より「アナカプリの丘」(第1巻)
- ドビュッシー:「前奏曲集」より「カノープ」(第2巻)
- ショパン:バラード第4番 ヘ短調 op.52
- (アンコール)サティ:グノシエンヌ第5番
- (アンコール)ドビュッシー:「ベルガマスク組曲」より「月の光」
- パスカル・ロジェ(ピアノ)
ご覧の通りもの凄い曲数。ただし1曲当たりの演奏時間は短く、20分の休憩+アンコール含めて、終わったのは21時15分ぐらいかな。前半はショパンの《革命》まで。要するに、前半は「ノクターン→舞曲(ワルツ→マズルカ)→エチュード」、後半は「前奏曲の塊をバラードで挟む」プログラム構成だったわけである。なお事前に、曲間の拍手は控えてもらうよう演奏者から要望があったとアナウンスがかかってました。
ロジェの奏でる音はふくよかで、すっきりさっぱり系では全然ない。切れ味という意味では「鈍い」とすら言える。この音でやや遅めのテンポを採用し、楽想を懇切丁寧かつまったりと弾いて行くので、どうにもパリッとした情感が出ない。これは前半のエチュードでは明らかにマイナスに作用しており、まるで乗れなかったことを告白しておきたい。鋭い切れ味で耳に突き刺さるような演奏ばかりがエチュードではない、なんてことは頭では理解していても、なかなか身体が、ね。またリズムを強調せず、どの曲も同じように弾くので、特に前半は、プーランクもショパンもドビュッシーもラヴェルも皆同じように聞こえた。ただしこちらは必ずしも悪いだけではなく、フランス印象派の中にまるで違和感なくショパンがはまっているのを聴いて、ショパンが活躍したのはパリだったことを実感できたのは良い体験であった。
とはいえ本日の白眉は後半。元来の曲趣が重い作品が並び、ロジェにも一段と熱が入る。「エスプリ」という言葉から連想される軽いアトモスフェアはなく、今まさに重厚な芸術作品を聴いていると強く実感させる演奏が展開され、深く沈み込むような重力のある音楽を堪能した。このピアニストが紛れもなく実力者であることを如実に示していた。前半の答礼では心持ち堅かったように思われたロジェの表情も、後半、ショパンのバラードを弾き終わるった後は結構和らいでいたように見えた。アンコールの二曲は、本プロに比べると肩の力を抜き、お洒落にまとめていたように思う。
それにしても、やはりドビュッシーの前奏曲集は本当に名曲だなあ。誰か全曲演奏会やってくれんもんですかねえ。第1巻だけだったら10月にルプーが弾いてくれるはずだったんだが、キャンセルになってしまったのである。