不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

NHK交響楽団第1688回定期演奏会

18時〜 NHKホール

  1. ショパン:ピアノ協奏曲第1番ホ短調 Op.11
  2. (アンコール)ショパンマズルカ第45番イ短調 Op.67-4
  3. ストラヴィンスキー交響詩「うぐいすの歌」
  4. ドビュッシー交響詩「海」

 Aプロなのに両日ともソルドアウト。ショパコン覇者の日本お披露目公演でもあるので、多分そういう層にもかなり売れたのだろう。コンサートに慣れていない層がいたからか、ショパンの第一楽章で派手に携帯の着信音を鳴らした馬鹿がいた。しかもJ-POPか何かの歌を着信音としていたらしく、おかげさまで非常にストレスフルな時間が過ごせました。今後は演奏会が始まる前に死んでくださいね。一応NHKホールも内部に電波が届かないようになっているが、やはり一部には隙もあるんだよなあ。不幸なことでありました。
 演奏はとても見事。まずショパンだが、アヴデーエワはかなり硬派で正統派の実力派だと見受けられた。妙なことは何もしないけれど、実に立派なショパンをあの巨大ホールにも負けず堂々と打ち出していたように思う。聴いた瞬間に天才だとか華があるとかいった感じではありませんが、変な意味でロマンティックにならず、かと言って硬質過ぎない、粒の揃った活力漲る音を駆使し、楽曲そのものをくっきり描き出していたように思われます。ベートーヴェンとか凄い得意そう*2。むろんエモーショナルな表現もばっちりで、アンコールのマズルカの儚げな表現も見事でありました。野暮用で8日のリサイタルは行けませんが、きっと素晴らしいんだろうな。
 なおショパンの段階から、NHK交響楽団は見事な鳴りを披露。非常にピシッとしたアンサンブルを聴かせてくれました。後半も実に素晴らしく、そりゃ無論若干の瑕やら事故はあったものの、繊細でクリアな音色で貫徹していたように思う。引き締まった演奏は、特にストラヴィンスキーでは見事にはまっていた。じゃあドビュッシーは引き締まりゆえに「硬く」なっていたかというと、そんなことはなかったのが意外。デュトワは《海》でかなり繊細で詩情豊かな表情付けを見せていて、テンポも本の気持ち遅めで、海を描いたとされる管弦楽のたゆといをじっくり聴かせてくれた。繊細な音色遣いはともかく、詩情なんてもんをデュトワがここまでクローズアップするとは思わなかった。
 というわけで、今日はたいへん満足して家路に着きました。

*1:第16回――つまり今年である――ショパン国際ピアノコンクール優勝者である。コンクールが始まる前から、今回の定期演奏会には優勝者が出場することがアナウンスされていました。

*2:「次はベートーヴェンが聴きたい」とすぐに言い出す人間は、99%、ベートーヴェンこそがクラシック音楽のアルファにしてオメガだと未だに信じ込んでいる頭が悪い上に古い人間だと相場が決まっています。あるいは、そんな馬鹿の言うことを真に受けた上で知ったかぶりして自分を偉く見せたいにわかですね。今回は字面だけ追うと私も同じこと言ってるように思われるかも知れませんが、アヴデーエワの輪郭がくっきりした音は、メジャーな作曲家だとベートーヴェンに一番向いてるんじゃないかなあと思っただけなんです。