不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

WEEKEND PIANO SERIES アレクサンダー・ガヴリリュク

15時〜 所沢ミューズ アークホール

  1. ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ第18番嬰ハ短調《月光》op.27-2
  2. ショパン:幻想即興曲第4番op.66
  3. ショパン:2つの夜想曲op.48
  4. ショパンスケルツォ第1番ロ短調op.20
  5. ラフマニノフ:楽興の時op.16
  6. プロコフィエフ:ピアノ・ソナタ第7番変ロ長調op.83
  7. (アンコール)D.スカルラッティソナタト長調*1
  8. (アンコール)メンデルスゾーン:結婚行進曲(ホロヴィッツ編)
  9. (アンコール)ショパンエチュードop.25-7

 やっぱり航空公園(埼玉県所沢市)は遠いが、行く度に本当に良いホールだなと思う。音響が素晴らしい。ホール客席の出入口が狭過ぎて、コンサートに行き慣れている私が見てもこりゃひでえ、という大渋滞を起こしてしまうのはご愛敬と言ったところか。音楽の神にちなんで名づけられたホールでは、川崎のが違う神(地震とか建築工学とかそういうの)の怒りに触れて3月11日に天井崩落を起こしてしまったので、首都圏では所沢のみが神の祝福を受けているということになる模様である。
 さてNHK交響楽団の定期公演にも出演したガヴリリュクの、日本ツアー最終日に行って来た。粒の揃った綺麗なタッチを駆使し、だがやる時は大迫力の音響も当然立て、ピアノという楽器、そして楽曲をしっかりと楽しませてくれました。基本的には癖のないストレートな演奏で、特異な味付けは全くないんですが、弱音でかぼそくメロディーを歌う場面に微妙な色香が漂い、非常に感心いたしました。というわけで、《月光》の第一楽章や、ショパンノクターン、そしてスケルツォの中間部は絶品であったように思います。面白かったのは、ベートーヴェンショパンはロマンティシズムを感じさせ一方、ラフマニノフではそれがあまりなく、硬質な音楽で一貫していたこと。にわかの私などは「え、それ普通逆じゃね?」なんて思ってしまうわけですが、煌びやかな音で小気味よく鳴らされる《楽興の時》は、これはこれで説得力が強く、納得した次第であります。プロコフィエフは圧巻。特にフィナーレでは、このクラスの腕前の人がこのテンポとこの快活さで弾いて初めて味わえる、強烈、饒舌、華麗な音響世界が成立していました。改めて、良いピアニストだなと。今日はかなりの至近距離で聴いたんですが、音のクリアさが半端ない……。
 なお、ホロヴィッツ編曲の《結婚行進曲》は、恐らく編曲者本人が弾いた場合よりも数十キロは体重が軽い演奏だったのが印象深い。

*1:すまんどれかわからん。