キーシン・フェスティバル2011 バースデー・スペシャル・コンサート
18時〜 サントリーホール
- シューマン:幻想小曲集op.73
- ラフマニノフ:チェロ・ソナタ ト短調op.19
- ショパン:夜想曲第10番変イ長調op.32-2
- ショパン:ピアノ・ソナタ第3番ロ短調op.58
- 【特殊枠】Happy Birthday to You
- (アンコール)シューマン/リスト:献呈
- (アンコール)ショパン:スケルツォ第2番op.31
- (アンコール)ショパン:ワルツ第7番嬰ハ短調op.64-2
- (アンコール)ショパン:ワルツ第6番変ニ長調op.64-1《小犬のワルツ》
- (アンコール)ショパン:マズルカ第40番op.63-2
- (アンコール)ショパン:ワルツ第14番ホ短調
- アレクサンドル・クニャーゼフ(チェロ、ピアノ)
- エフゲニー・キーシン(ピアノ)
後半はキーシンとアルゲリッチのデュオ(!)になる予定だったんですが、アルゲリッチは健康上の理由で来日自体をキャンセル*1。結果、キーシンのソロのショパンに変更となりました。他日のソロ・リサイタルの演目はリストが予定されているので、曲目は重複しない、という配慮がなされております。まあアルゲリッチは体調が悪かろうが良かろうが、原発事故があろうがなかろうが、元々キャンセル頻発させる方なので、これには特段の意外性はありません。驚いたのはクニャーゼフが来たこと。五月のロシア国立響の日本ツアーでは、帯同ソリストだったにもかかわらずキャンセルしていたからなあ。もう来ても大丈夫だと判断し直したのか、それとも今回は滞日時間が短いから問題ないと判断したのか。後者であれば、一週間以上ツアーが続く場合は、今後も同様にキャンセル&今後日本ツアーの契約は締結しない、という対応になるものと思われます。来てくれたからと言って油断は禁物ですよ皆さん。
演奏は、特に前半が圧巻。キーシンは室内楽だからと特段抑えたりせず、ソロの時とほぼ同じようにピアノを重厚かつ豪華に鳴らす。結果、チェリストは常に力奏を強いられて大変そうでした。しかしこれに十全に応えられるのがクニャーゼフのクニャーゼフの所以。チェロもピアノも素晴らしかったとしか言いようがありません。音楽的にはどちらが主導権を握るというわけではなく、もちろん互いの音を聴き合ってはいましたが、各々が楽譜に正面からぶつかっていった趣が強く、壮大にしてロマンティック、そして劇的な演奏に仕上がっておりました。なお二人とも奇手を使うタイプじゃないので、解釈面で特段の仕掛けはなし。ただし先述のとおり、「音」そのものによる対抗はありました。圧巻はやはりラフマニノフ。シューマンからだいぶテンション高かったんで、これはひょっとすると思ってたら、その通り、ぶっ飛びました。
後半は、アルゲリッチのキャンセルを受けて、キーシン単独でのリサイタルと化しました。基本的に真っ当な楽曲解釈に、所々ロマンティックな表情付けをおこなっていきます。それをこの華麗にして重厚な音でやられるんだからたまらない。音のしなやかさはどんなシチュエーションでも確保されてますが打鍵は強烈。今日はメカニックにやや安定を欠き、たまに弾き損じる瞬間なしとはしません。しかしやはり圧倒されるんだよなあ……。この音そのものが、本当に忘れがたい。
なお、本日は演奏会の趣旨が「キーシンの40歳のバースデー・コンサート」だったんですが、それに相応しいサプライズが用意されておりました。本プログラムが終わって、普段着のジャケットに着替えたクニャーゼフがもう一度舞台に出て来たんですが、キーシンと握手した後、何とピアノの前に座ってハッピーバースデーを弾き始めた! しかも結構上手い! これに会場が手拍子で合わせて(歌ってる客も多数)、終わった時は会場は興奮の坩堝。いいですねえこの雰囲気。と、まあここで終わっておけばよかったんだが……。
アンコールは6曲。多いのはありがたいんですが、問題は拍手まで全て終わるのに本プログラム終了後1時間かかったこと。正直、3曲ぐらいアンコールやった後にさっさと会場のライト明るくして客をはけさせたら良かったんですが、ずっと暗いままだから、客が帰り時を見失ってるのね。最後まで残っていた客は6割ぐらいかしら。確かにキーシンはアンコールたくさんやってくれるピアニストということになっていますが、さすがにスケルツォ以外は短い楽曲ばかりだし、これで1時間も帰るのが遅れるのは微妙な気分になります。いや別に予定はないんだけれど。なお、私が拍手し続けたのは、アンコール聴きたかったからではなく、「最後まで」拍手するのが感謝の念を示す最低限の礼儀だと思っているからです。でもこういう演奏会に出くわすと、その考え方で良いのかどうか迷ってしまうなあ。