不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

森下唯ピアノリサイタル

14時〜 東京文化会館小ホール

  1. アルカン:悪魔のスケルツォ op.39-3
  2. アルカン:3つの大練習曲 op.76
    • 変イ調の幻想曲:左手のための
    • 序奏、変奏曲と終曲:右手のための
    • 相似的無窮動:両手のための
  3. シューベルトピアノソナタ第21番 変ロ長調 D960
  4. (アンコール)椎名豪:蒼い鳥(森下唯編曲)
  5. (アンコール)森下唯:時報によるロマンスト長調
  6. (アンコール)シューベルト:楽興の時 D780 より 第2番イ長調
  • 森下唯(ピアノ)

 自由席だったのでさっさと並び、ピアニストの指遣いが見られる席を淡々とゲット。小ホールだったのでホワイエからの入り口を(一瞬だけだが)探してしまったのはご愛敬である。
 前半は全てアルカン。間近で見ていると指の動きが本当に変態で、かなりのメカニックが要求されるということがよくわかりました。片手だけでメインメロディーと伴奏をどうやって同時に弾いているのか、「見て」も全くわからない。フゲッタとかもマジであり得ん。これは酷いな(良い意味で)。森下唯はしっかりと楽譜を把握して、非常に真っ当かつクレバーな解釈で聴かせてくれたように思います。ミスタッチは散見されましたけれど、リズムやテンポの上では一切動じないのが大変に立派。
 後半のシューベルト最後のソナタも、真っ当な解釈で曲そのものに語らせる。個人的にはもうちょっとタッチの粒立ちが磨かれている演奏を好みますが、これが本来の姿なのかも。ほの暗い雰囲気をうまく醸し出せていて、結構なお手前でした。そしてアンコール! 一曲目が始まった瞬間に客席が少しだけどよめいた辺り、当日の客層を示唆しています。《蒼い鳥》は、ニコニコ動画にアップされている演奏よりもテンポが若干速く、主部がこれだと間奏部の印象が埋没するなあという印象。メカニカルな面でも若干つんのめった部分もありましたが、これを実演で聴けたというのは紛れもなく耳の悦びであります。《時報によるロマンス》は流石の出来栄え。そして最後は再びシューベルトに回帰して演奏会を綺麗に締めくくっておられました。学芸大学オケの演奏会でもアンコールこれでしたが、ひょっとしてこの曲が彼にとっての定番アンコール・ピースなんでしょうか? なお、《蒼い鳥》《時報によるロマンス》いずれも違和感なく演奏会に溶け込んでいたのが印象的であります。それほど華やいでいないシューベルトに挟まれても大丈夫な辺り、いかにシックに作られているかがわかるというもの。いやあ面白い演奏会でした。
 なお、アンコール曲目は掲示した方が良かったような気がします。ニコニコ動画を見たこともないであろう方々が、実際に探していらっしゃいました。