不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

ポール・ルイス シューベルト・チクルスVol.2

19時〜 王子ホール

  1. シューベルト:12のワルツ、17のレントラーと9つのエコセーズD145より11曲*1
  2. シューベルト:4つの即興曲D899
  3. シューベルトハンガリーのメロディ ロ短調D817
  4. シューベルト:ピアノ・ソナタ第18番ト長調D894《幻想》
  5. (アンコール)シューベルト:アレグレット ハ短調D950

 二年半かけておこなわれる、後期シューベルトの鍵盤楽曲チクルス2日目。本日もポール・ルイスの個性が際立った演奏で、全ての小節いや音符にくっきりはっきり太いアンダーラインを引いて行くような演奏(音は硬かったり柔らかかったりと色々表情を変えては来てます)。音楽全体のフォルムは絶対に崩さないのだが、細部に至るまで徹底的に意味を掘り起こす演奏であり、その徹底ぶりは本当に天晴なほどで、曲趣が変わってしまう。ふわふわメロディーがたゆとい、魂が喜怒哀楽のあわいをフラフラ逍遥するような趣が強く、反面構成的な要素はそれほど強固ではない、というのがシューベルトの特徴だと思うんですが、それをぶち破り、虚空に浮遊している物が全て地に固定され、猛烈に観察/分析/分解/再構築されている感がある。集中力は大変なものがあるし(だから堪能しようと思ったら、聴き手も相当の集中力が要求される!)、これはこれで一つの良い演奏になっていて、ピアノの周囲に凝集されて行くシリアスで硬質な空気感は見事なんですが、私の好みドンピシャではなかったかも知れない。個人的に、この解釈が一番奏功していると思われたのは意外にも即興曲。殊に、第2番の絶叫するようなラストの一撃は見事だった。一方、ソナタはちょっと胃にもたれたかなあ。これ、最後のソナタ3曲だとどうなるんだろう。ワルツもなかなかのものでした。こういうリズミカルな曲の方が合っているのかも知れません。彼のベートーヴェンを生で聴きたくなって来ました。
 4月の第1回時にいた、ポール・ルイスを睨んで親指を下に向けた野蛮人は今日は見当たりませんでした。良きかな良きかな。しかし、前方中央ブロックに座っている人は、拍手が非常に早くて参った。ピアニストがまだ脱力してないんだから、もうちょっと余韻を味わってから拍手してもバチは当たらないと思うんだ。

*1:ワルツ1・2番、レントラー2・3・10・11番、ワルツ9・10・8・6・12番がこの順番で演奏された。