不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

ウィーン・コンツェントゥス・ムジクス来日公演

18時〜 サントリーホール

  1. ハイドン:オラトリオ『天地創造』 Hob.XXI:2

 台風の影響か、元々チケットが売れていないのか、会場は7割ぐらいの入り。1階席両翼や2階席C以降に空席が目立ったことから考えると、多分「元々売れていない」が正だとは思います。二回も同じ演目をやったからなのか、不景気だからなのか……。アーノンクール最後の来日(と本人が言っている)ですらこんなもんなのね、と残念な気持ちになりました。
 しかし演奏の方は凄かった! NHKホールでのロ短調は正直音が遠かったので、本来なら満ちているニュアンスが鮮明には飛んで来ていない印象がありましたが、そこは流石サントリーホール、実にフレッシュな音楽が耳に直接飛び込んで来ます。ニュアンスが細かいと言うよりも、全ての音に生命感が漲っていると言う方が近い。その上で織り成される、天地創造と主への賛歌……。SFファン的には、創造説に繋がるストーリーラインを有するこのオラトリオの歌詞は否定的・理知的に聞くべきなんでしょうけれど、そんなのもうどうでもいい! というか天地創造とか主とか愛とかどうでもいいからこの音をもっと聴いていたい!という感情に襲われて、涙腺が崩壊気味に。
 精彩そのものの音の弾みが、オケ・合唱・ソリストの全てに徹底されているのも素晴らしい。そりゃオケは技術的にはそんなに上手くない(ただし古楽オケではこれは宿命とも言えます)し、ソリストもバスは若干声の点で不調かな、ソプラノはビブラート強いなとか色々ありましたが、ここまで活き活き演奏されるともう感動するしかない。休憩時間中に「有名演奏家の来日公演ではいつも見る面々」(多分ギョーカイの方なんでしょう。よく知りませんが)が2階ホワイエのエレベーター近くに寄り集まって盛大にdisってましたが、確かに細かい所をあげつらい始めたら彼らの言う通りなんでしょう。しかし私は、今日は音楽そのもののあり方に打たれたのです。
 とりあえず、合唱団は技術的にも指揮者の指示遵守的にも素晴らしかった(この合唱にはさすがに文句の付けようがない)。次に素晴らしかったのはオケ。若干変な音を出している場面もありましたが、表情付けが非常に細かく、かつ活力漲る演奏で、本日の感動を下支えしていたように思います。こういう奏楽なら、いつまでも聴いていたい。
 ハイドンのこの曲は従来それほど好きな曲ではありませんでした。「宗教がらみの音楽で明るいとか、あり得ん(笑)」などと思っていたのですが、今日の演奏はその盲目っぷりを打ち払ってくれた。全ての音符を溌剌と演奏すれば、なるほどこれは本当に名曲だと骨の髄で痛感した次第です。正直申し上げてこれは一生ものの耳の宝。《天地創造》の実演に求める水準が、(他の演奏家からすれば致命的なまでに)上昇した演奏会であったと言えましょう。こういうのがたまに聴けるから、コンサート通いは止められないのです。