不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

不可能犯罪コレクション/二階堂黎人(編)

 気鋭の推理作家(本格寄り)が不可能犯罪を取り扱った、書き下ろし短篇だけで構成されている。
 大山誠一郎「佳也子の屋根に雪ふりつむ」は、一応ロジカルなのだが、前提となる状況がご都合主義に過ぎる。主人公がその場所で自殺を試みるのが完全に偶然なのが何とも……。このため納得感が薄くなっているのである。また、屋根に雪ふりつむ、というイメージの美しさを小説としてうまく活かせていない。最後にちょろっと出される幻想味も無駄としか思えなかった。これらで雰囲気が出せていたら、少々の「リアリティーのなさ」に目を瞑ることができたのに。
 岸田るり子「父親はだれ?」では、岸田るり子一流の、二転三転するイヤ話系サスペンスが楽しめる。しかし、この作品単体で見ると、最後は付け足し感が強過ぎるのではないか。本格ミステリ・アンソロジーであることに(編者の二階堂黎人に?)気を遣いすぎたか。続く鏑木蓮「花はこころ」は、能の世界で起きる殺人事件を描く。水準の出来栄えとしか言いようがない。能楽にもっと踏み込んだら話として面白くなったかも知れないが、それだとアンソロジーの趣旨に反してしまうかもなあ……。
 門前典之「天空からの死者」は蜘蛛手もの。既存作品同様、人工的なトリックで魅せる作品だが、長篇作品で見せた派手なケレン味には及ばず、ちょっとインパクトに欠ける。動機も無理筋だとは思うものの「単にそいつがアホor基地外であったのだ」と言われると、まあ理解できる範疇ではあろう。障害者でなくとも、心を病んでいなくても、言っていることが明らかにおかしい人って、あなたの身の回りにもいませんか? さて、通常はその「おかしい人」を描くのが大変うまい石持浅海の「ドロッピング・ゲーム」は、超エリート主義社会となった日本を舞台に、ある中学のトップ・グループの中で起きた殺人事件を、外国人教師の目から描く。国全体・社会通念自体にかなり手を加えているので、我々の感覚から妥当性を判定するのは控えるべきだろう。ただし、読者が推理可能なほどには、きっちり社会倫理を詰めきれていないように思われた。シリーズ化の意向があるらしいので、本格ミステリ上の成果はそちらに期待する。
 最後を締めるのは、編者の朋友・加賀美雅之の「『首吊り判事』邸の奇妙な犯罪」である。いかにも二階堂黎人が好きそうな、無駄に大袈裟な文章表現と極めて大味な物理トリックに彩られた密室事件である――と結論しそうになるのは、この手の作品を私があまり好まないからだろう。公平に言えば伏線やロジックはそれなりにしっかりしているので、作家・編者と嗜好を同じくする人には楽しめるはず。この作品を締めに持って来て良かったのかどうかは、読者個々人が結論を下すべきだろう。