不壊の槍は折られましたが、何か?

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耳をふさいで夜を走る/石持浅海

耳をふさいで夜を走る

耳をふさいで夜を走る

 並木俊介はある危惧を抱き、年若い知り合いの美女三人を殺害すると決意していた。そんなある晩、セフレである奥村あかねより、これからそちらへ向かうとの電話が入った。
 登場人物が全員正義や倫理を標榜しつつも、誰一人、何一つマトモな言動をとらない。それどころか、地の文も視点人物の内面が直接描かれているため、一行たりともマトモなことが書かれていないのである。誰も彼もがのべつまくなしに、明らかにおかしい。これは凄い。
 石持浅海の作品に出て来る「倫理」を気味悪がる意見はこれまでも非常にしばしば見られたが、『耳をふさいで夜を走る』は間違いなくその頂点に立つ作品である。まさに黒石持全開、ここまで気色悪い300ページは史上稀に見る。ミステリ的な仕掛けはまずまずといったところだが、イヤ話としての印象は本当に強烈である。好事家には強くおすすめしたい。