不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

見知らぬ者たちの船/ボブ・ショウ

 一応長篇だが、実質的には短篇5篇から成る連作短篇集で、宇宙調査船サラファンド号の活躍を描く。内容からするとA・E・ヴァン・ヴォクトの『宇宙船ビーグル号』を本歌取りしたのは明らかだ。とはいえパロディではなくオマージュ寄りと考えるべきで、オリジナルのネタも交えつつ、読者を楽しませてくれる。一応伏せておくが、サラファンド号の船長イソップの正体はオリジナルで、第1話の敵性生物を撃退できた理由そのものになっていると同時に、多くの乗組員からいまいち信頼されていない理由にもなっております。で、その第1話は走行車にすら化けられる超生命体が母船サラファンド号に侵入するのを防ぐ話。そりゃ送り出したのが6両なのに戻って来たのが7両だったら、明らかにおかしいのはわかるよなあ。でもこれは相手がアホだからではなく、何万年も知的生命に出会っていなかったから勘が鈍るか何かしたということで理解可能です。それに、異種知的生命の相互理解は本質的に不可能or極めて困難、というテーマはこの作品が発表された1978年頃では既に普遍的であったろうし。また、ファーストコンタクトだからこうなったという面も否定できないと思う。
 第2話は、乗組員たちの無聊を慰めるために各人に配給された仮想シミュレーションの女性が、みんな同じ女性だったことが判明し、男たちが怒り出してしまう話。要するに「○○は俺の嫁」で喧嘩するのと大差ないというか完全に同じです。オチには思わず笑ってしまった。イソップは自重すべき。第3話は、乗組員の一人がわずかな武器を持った状態で、滅亡した文明の残した大量の自動兵器のど真ん中に放置される話。いかにしてこの乗組員を助けるかが焦点になるのだが、イソップ船長が実は適当であることが判明して笑える。第4話は、時間の秘密を解き明かし時間を自由に行き来できる異種族*1の妊婦を保護してしまった、というお話である。ラストは悲劇エンドでも何でもないのに物悲しく、情感たっぷりで味わい深い。やっぱり時間テーマは卑怯ですね。そして最終話の第5話は、女性乗組員が登場する中、サラファンド号が迷子になってしまい、おまけにどうやら異なる物理法則が働く宇宙に来てしまっていたらしく……というお話。『見知らぬ者たちの船』ではこの話が一番ハードSFらしい。宇宙で行くところまで行ってしまったらどうなる、という点でポール・アンダースン『タウ・ゼロ』(創元SF文庫)を思い出した。いやSF強度は『タウ・ゼロ』の方が段違いで高いけどね。
 全体的に非常にあっさりした味付けだが、ふとした拍子に変わる雰囲気がいとをかし。やっぱりボブ・ショウは面白い。だからもっと紹介してくれってば。

*1:某イスの偉大な方々ではありません。