心臓と左手/石持浅海
- 作者: 石持浅海
- 出版社/メーカー: 光文社
- 発売日: 2007/09/21
- メディア: 新書
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テロリズムに染まる人間は、その根幹において純粋である。純であるから暴力を厭わないほど何かにのめり込めるのだろう。従って(かどうかは正直よくわからんが)座間味は基本的に、関係者の心理的側面からアプローチをかける。犯人がとったとされている行動がその心理に即して納得できない、ゆえに真実は他にあるはず、という理屈は極めて脆弱であり、畢竟その推理も脆弱な思い付きにならざるを得ない。思考実験としては面白いが、確信を持って「これが真相だ!」とは断言できないはず。だがそれを断言する座間味君は――まあ「俺は人の心がわかるんだ」と信じ込む程度には純なのだろう。しかし不思議と違和感はないのは、先述のようなテロリズムの「純」と、人の心がわかると思う「純」がマッチングするからである。
理屈そのものは通っており、「なぜそれが真相だと言い切れるのか?」といった点では弱いものの、推理を楽しむことはできる佳品である。個人的には『Rのつく月には気をつけよう』よりも高く評価したい。
ただし最終話の「再会」は、登場人物全員があまりにもアレ過ぎて困った。生理的嫌悪感を抱いたことを告白しておきたい。狙ってやったのであれば、凄い作家だと思う。