不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

おかけになった犯行は/エレイン・ヴィエッツ

おかけになった犯行は (創元推理文庫)

おかけになった犯行は (創元推理文庫)

 ヘレン・ホーソーンは、諸般の事情でセントルイスのキャリアウーマンから転落し、フロリダに逃亡してしがないバイト生活を続けていた。今の仕事は電話セールス。汚いオフィスから電話をかけて、売りこみをかける日々を送っていた。そんなある日、電話の向こうで殺人が起きるところを聞いてしまう。しかし死体は発見できず、警察はヘレンの勘違いとして処理してしまった。だがヘレンは納得できず、独自に調査を開始した。
 というわけで、ヘレンの転職ミステリ・シリーズ第3弾である。格差社会だ何だと言われる中、42歳の女性が底辺の仕事(それもバイト)で糊口をしのぎ、素敵な男とめぐり合うことを夢見ながら毎回毎回クズ男にしか引っ掛からず、それでもなお元気に暮らしている姿を見ていると、なかなかに勇気付けられる。ユーモアタッチの作品であり、読んでいるだけで楽しいのもポイントが高い。
 ミステリとしての作りは流々だが、レギュラーや本作単体のキャラ含めて、登場人物が活き活きと描き出されているのは素晴らしい。ヘレンの心理の動きが(ユーモアに紛れてはいるが)かなり細かく、稠密に追われていることにも注目したい。本書および本シリーズは、ミステリ・マニアが眉間に皺を寄せつつ深く鋭く読解するようなものではない。しかし、ユーモア小説を好む人や、堅苦しく真面目なミステリだけでは飽き足らないミステリ・ファンには、至福の時間をもたらしてくれるはずだ。こういうシリーズは、ずっと続いてい欲しいものだが……。