不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

判事とペテン師/ヘンリ・セシル

判事とペテン師 (論創海外ミステリ)

判事とペテン師 (論創海外ミステリ)

 英国高等法院判事のチャールズ・ペンズウィック。謹厳実直な判事として高名な彼であったが、その息子マーティンは、隔世遺伝なのか、ペテン師であった。マーティンは債務返済を迫られているが、本人はもちろん、父にもそんな大金はない。そこでチャールズは、偶々直近で自らが担当した訴訟の証人に、競馬が百発百中の牧師がいたことを思い出す……。
 セシル節は健在である。このぬけぬけとしたユーモアを見るが良い! 話に大きな筋を一本通す方向ではなく、細かなエピソードを積み重ねてゆくタイプの作品だが、一つ一つのエピソードが愉快な皮肉と風刺に満ちている。そしてここが特徴なのだが、バークリーの皮肉とは異なり、割と屈託がない。読んでいて非常に楽しい。実はセシル大好き野郎なので、とても幸福なひとときを過ごせました。
 というわけで基本的にはお薦めなのだが、こなれていない訳だけが残念。微妙な味わいが殺がれていると思う。シリル・ヘアーの『いつ死んだのか』にも、どうも変な箇所が散見された。名手の未訳作品が読めるのはありがたいのだが、別に人は海外黄金期のみにて生きるに非ず。私にしてからが、海外黄金期がないと死ぬわけではない。もう少し何とかしないと、客が逃げるのではないだろうか。それとも、もう逃げたから価格アップなのかね。