ひげのある男たち/結城昌治
- 作者: 結城昌治
- 出版社/メーカー: 東京創元社
- 発売日: 2008/06
- メディア: 文庫
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再読である。初読時の感想は削除しておいた。
いきなり「人間のひげは生えるものか、それとも生やすものかという議論が、古代ギリシャにおいて行われている」という一文から始まる小説で、ひげに代表される、とぼけた会話や表現が挟まれる。事件内容もとにかくひげ、ひげ、ひげだ。そう、本書はユーモア小説なのである。作者の結城昌治にとってはこれがデビュー長編となるが、後に直木賞や吉川英治文学賞を受けているように、その文章力は折り紙付きである(ちなみに作者は本長編を上梓した時点で32歳。当たり前だが、既に文章力は固まっている)。非常にしっかりした文章でくすぐられると、眉間に皺を寄せて本格推理に挑戦しようという気難しい読者も、思わずプッと噴出してしまうだろう。
しかし読者はその時点で作者の術中にはまっている。ユーモラスな中に、結城昌治は緻密な伏線を配置し、推理の手がかり、真相到達への道筋を刻印する。くすくす笑いながら楽しく読んでいた読者は、これらを読み逃してしまうのだ。では、「笑いには誤魔化されぬぞ」と全力投球したらどうなるか。しかしそれでもなお真相がわからない人の方が多数派になるのではないかと思う。作者はユーモア抜きでも、実に巧妙に真相を隠しおおせているのだ。これだけでも素晴らしいが、にもかかわらず、奇を衒ったところが皆無なのは凄い。探偵役の人物が組み立てた論理は大変に堅牢である。これほどの強度のある真相特定は、現今なかなかないのではないか。あらゆる意味でお手本のような本格ミステリであり、おまけに先述のように、普通に読んでいるだけでも面白い。推理小説ファンなら全員必読の一冊ではあるまいか。