目くらましの道/ヘニング・マンケル
- 作者: ヘニング・マンケル,柳沢由実子
- 出版社/メーカー: 東京創元社
- 発売日: 2007/02/10
- メディア: 文庫
- 購入: 3人 クリック: 13回
- この商品を含むブログ (24件) を見る
- 作者: ヘニング・マンケル,柳沢由実子
- 出版社/メーカー: 東京創元社
- 発売日: 2007/02/10
- メディア: 文庫
- 購入: 2人 クリック: 6回
- この商品を含むブログ (16件) を見る
『目くらましの道』を含めたヴァランダー・シリーズは、最上質の警察小説であると共に、素晴らしい社会派ミステリである。ただし、社会派ミステリといっても、特定の団体や社会階層・政治思想を声高に指弾する浅薄なものではない。作者の筆はあくまで抑制が利いており、主人公や作者自身の信念が強烈に打ち出されることなどない。このシリーズにおいて、社会的な問題は、目の前の事件に対して主人公が抱く、《世の中、何かがおかしくなって来ている》というやや漠然とした不安感という形で提示されるにとどまる。この提示の仕方が絶妙であるとともに、ヴァンランダーが非常にニュートラルな男であることもあって、社会派小説の割には、テーマについてほとんど反発を食らわないのではないか。ヘニング・マンケルは、安易な《解決》を社会にもたらしはしない。その方法を提示することもない。そして、主人公たちは、心に忘れがたき記憶を刻みつつも、それでもなお、老父や娘、そして恋人と仕事の日常へ戻ってゆく。そう、社会問題に触れた後の我々の大多数のように。
『目くらましの道』は、そんなこのシリーズの(既訳分における)最高傑作である。特徴を一つだけ挙げておこう。それは、タイトルが最後に強い印象を残すということである。とにかく読んで欲しい一作だ。強くお薦めしておきたい。