ホット・キッド/エルモア・レナード
- 作者: エルモアレナード,Elmore Leonard,高見浩
- 出版社/メーカー: 小学館
- 発売日: 2008/01/07
- メディア: 文庫
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時代背景には禁酒法・世界恐慌・ギャングたち*2の活躍があるが、レナードの筆はその暗部に深く切り込もうとはしない。だがその中でも、各登場人物の人物像が鮮やかに立ち上がるのだ。法の側に立ち正義を追求するはずのカールは、しかしどこか銃によるバイオレンスに頼るところがある。対するジャックは、確かに悪党であり言い訳が利かないほど酷い行状*3を繰り返すのだが、どこかトボけていて憎めない。彼らの周りにいる脇役たちも、いずれも劣らず見事にキャラ立ちしている。
レナードは、実にスムーズかつスピーディーな進行を目指す。文体も流麗だが、事態はコロコロ変わり、カールとジャックが協力し合うような局面すら訪れる。しかし作者の筆はあくまでクールさを保ち、作者自身が熱狂するようなシーンは皆無である。もっともそれを言い出したら、登場人物たちもそうである。己の存在や信念を賭けて勝負する、といった悲壮感は薄い。だが、隆とした佇まいそのものが読者に鮮烈な何かを残すのだ。一言で言って、カッコいい。それも、英雄的だったり悲劇的だったり漫画的だったりしない――ギャングあるいはガンマンのカッコよさなのである。脇役たちも皆、カールやジャックと丁々発止のやり取りをおこなうに相応しい、気持ちいいけど癖のある人間だ。女性も含めて、である。適度な影を含んだ彼らの姿を、見ない手はない。
というわけで、『ホット・キッド』は傑作であり、ジェイムズ・カルロス・ブレイク『掠奪の群れ』とはまた違った意味で、この時代を舞台とした若者たちのドラマとしては最善の小説ということになるだろう。強く推したい。しかしこれ書いた時、レナードは79歳だったのである。あり得ねえ。