不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

無頼の掟/ジェイムズ・カルロス・ブレイク

無頼の掟 (文春文庫)

無頼の掟 (文春文庫)

 叔父たちと銀行強盗などをやっているソニーは、ある強盗の最中、ヘマをして警察に捕まってしまう。放り込まれた留置場で、同房の男がもう一人のガキ(おかまっぽい)を襲おうとした。そこでソニーはガキを助けに入るのだが、監房内での容疑者同士の争いを止めようとした若い看守を、ものの弾みで殴り殺してしまう。その看守は、伝説の保安官補ジョン・ボーンズの息子だった。この結果、ソニーが放り込まれたのは湿地帯の監獄。このままでは監獄にボーンズの手が回り、事故死ということで殺されてしまうと危惧したソニーは、脱獄し、最初の強盗のときからうまく姿をくらましていた叔父たちと合流する。だがしかし、ジョン・ボーンズは、復讐のためソニーを単身、執拗に追ってくるのだった……。
 最高の青春ギャング小説。血沸き肉踊るストーリーと粋がったユーモアがテンポ良く繰り出される。ソニーの一人称もいい感じで饒舌で、自分や叔父の来歴を語る回想シーンも鮮やかで、主要登場人物の性格を決定付ける効果をめざましく発揮する。そして彼の脱獄成功は、ここまででも十分面白いにもかかわらず、後になって振り返れば、物語が本格的に走り始める準備が整ったことしか意味しない。その後の展開は本当に素晴らしい。全体のペース配分も絶妙で、特に400ページを越えて以降の展開と語りは凄まじい。ファム・ファタルの登場と彼女との関係性もまた、非常に印象的である。
 ここにあるのは、苛烈ではっちゃけたソニーと叔父たちの人生そのものであり、最近はノワールとやらに包含されて各所で誤解される犯罪小説・ギャング小説・ピカレスク小説の、繰り返すが最高の姿の一つである。悪逆のカッコ良さというものを、これを読んで知るが良い。超お薦め。……清純派読者には難しいかもしれませんが。