不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

キューバ・リブレ/エルモア・レナード

キューバ・リブレ (小学館文庫)

キューバ・リブレ (小学館文庫)

 1898年、カウボーイのベン・タイラーは馬を売るため、アメリカとスペインが一触即発の状態にあるキューバにやって来た。タイラーの度胸を見込んで相棒に指名したバーク、依頼主である大農園主ブドロー、彼の愛人アメリア、ブドローの従僕を装いつつ影で何か企んでそうなフエンテス、タイラーをアメリカのスパイと疑って付回す治安警察のタバレラ、ハバナ湾で謎の爆発を起こした戦艦メイン乗組員の数少ない生き残りヴァージルなど、登場人物が出揃いつつある中、タイラーはタバレラに捕まって投獄されてしまう。一方、アメリアはフエンテスと共にある計画を練り上げて……。
 米西戦争を背景に、元強盗犯でもあるタイラーがキューバに渡り、現地の富豪や軍隊を相手にまわして大金をせしめようとする。単純に言えば本書はアクション小説であり、登場人物全員が善玉悪玉にはっきり分けられない。しかし彼らの言動は支離滅裂というわけではなく、それぞれに人物造形上の説得力を有しているのが素晴らしい。人間には様々な側面があるということを娯楽小説の中に見事に落とし込んでいる。途中で様々な出来事が起き、物語の方向性もその度に変わるという非常にダイナミックな展開も楽しいが、変な意味で複雑化しないのも好印象である。
 舞台が一世紀以上前のキューバ(主権はスペインに辛うじて存する時代)ということで、南国情緒や異国情緒がかなり前面に出されると同時に、モノクロの質高い娯楽映画を見ているような感興にも襲われ、実に面白く読んだ。素晴らしいと思います。