不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

無伴奏ソナタ/オーソン・スコット・カード

 短編集である。人間の負の側面もたっぷり描き出し、残酷あるいは悲しい結末を迎える作品も多いが、どこかに救いや慰めも用意していて、人間に対する肯定的な視点を忘れない。このため、読者の気分はそこまで暗くならずとも済む。あと、俗に言う「持ち上げて落とす」ようなことをしないのも大きい。ジャック・ケッチャム辺りはこれを盛大にやるんだよなあ……。いずれにせよ、大変質の高い短編集である。広くオススメしたい。
「エンダーのゲーム」は、同名長編の短編版。アイデア自体は一発ネタであり、話の構造のエッセンスを読み取るには短編の方が向いているが、登場人物の描きこみは長編の方が圧倒的に上である。既にシリーズを『ジェノサイド』まで読んでしまった私は、本短編の登場人物の心情をどうしてもオーバーリードしてしまう。本短編単体での評価は差し控えたい。
「王の食肉」は、国民の体の一部が王と女王の食卓に供される、という星での話。全ての国民が身体のどこかを食べられた頃、他星からの使者がやって来る。退廃的な雰囲気もいいが、肉体を国民から集めて回る「羊飼い」の真の狙いと、彼に向けられた国民の恨みつらみが本作の根幹を成す。残酷ではあるが、一種の信念の物語ともいえるだろう。
「呼吸の問題」は、呼吸によって他人の死期がわかるようになった男の物語。異色系の短編である。
「時蓋を閉ざせ」は、時間旅行によって死を体験する背徳的なグループを描く。退廃的な雰囲気がこれまた素晴らしい。
「四階共同便所の怨霊」は完全にホラーで、怪物が主人公の妄想かそれとも実在化で最後まで不気味に引っ張る。この作家の作風の広さには驚かされる。
「死すべき神々」は、とんでもなく長命の異星種族にとっての神とは何かという物語である。皮肉だが荘厳ですなあ。
「解放の時」は、胸騒ぎを覚えて帰った自宅に、棺があるのを見付けて困惑する物語である。ホラー小説と言うよりも幻想小説で、オチもはっきりしない。
「猿たちはすべてが冗談なんだと思い込んだ」は、いきなり宇宙空間に出現した、独立した空間を内部に数え切れないほど抱える天体に、地球の少数派民族がこぞって移住してしまうというもの。一種のユートピア小説で、暗くなったとしても『キリンヤガ』程度だろうなあと思っていたら……! 科学の傲慢や、行き過ぎた民族主義を皮肉っている気がしないでもない作品である。
「磁器のサラマンダー」は、ずっと動き回っていなければ永久に動けなくなる磁器のサラマンダーと、父にうっかり呪いをかけられてしまった娘の交流を描く作品。個人的にはこれが一番お気に入りかな。切ないねえ。
無伴奏ソナタ」は、管理社会の元、社会の掟に反した青年主人公が辿る数奇な運命を描く。音楽に対する愛と理不尽な抑圧、だがそれでも最後まで希望が残って消えようとしない希望が何とも言えない後味をのこす。