ハンニバル・ライジング/トマス・ハリス
- 作者: トマスハリス,Thomas Harris,高見浩
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2007/03/28
- メディア: 文庫
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上巻の巻頭に宮本武蔵筆の《枯木鳴鵙図》が掲げられ、早速暗雲が立ち込める、怪物レクター博士の若年時代を描く作品。テイストは非常にライトで、レクターの無感動な冷たい人格さえなければ、至極普通のあっさりとした復讐譚でしかない。日本云々については、
紫夫人の名は、世界最初の偉大な長編小説である『源氏物語』の作者、紫式部に由来する。本編における紫夫人は小野小町を引用し、与謝野晶子の歌を心の中で聞く。彼女とハンニバルの別れは、『源氏物語』にその雛形がある。
という、トマス・ハリスのあとがきをもって全ての感想としたい。トレヴェニアンの『シブミ』まで突き抜けていたら、大絶賛したんですけどねえ……。
肝心のハンニバル・レクターの描写については、今回は薄過ぎると断じざるを得ない。同人誌を読んでいるような気分を、最後まで拭うことができなかった。『ハンニバル・ライジング』に比べたら、『ハンニバル』は本当に強烈だったのだなあと。わかりやすい《人間味》をほとんど与えなかったことにのみ、トマス・ハリスの残滓を見る。
軽く読む分には問題ない小説であるが、ハンニバル・レクターが誰だか知らないと、読みどころを探すのに苦労するだろう。こういう言い方はアレだが、薦め勝手も極めて悪い小説である。