不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

顔のない敵/石持浅海

顔のない敵 (カッパ・ノベルス)

顔のない敵 (カッパ・ノベルス)

 地雷シリーズ6編+デビュー短編1編を収めた短編集。300頁未満と大変薄いが、お買い得感があるのは、各編の作品水準が高いからであろう。
 石持浅海の特徴にして、人によって長所ととるか短所ととるか態度が分かれるのは、作者と物語が登場人物に情けをかけてしまい、また仲間内の情愛に絶大な信頼を寄せているところだ。私自身は、これらを弱点と考えており、巷間それなりによく言われる「石持浅海の作品は気持ち悪い」という感想には大いにシンパシーを感じるところである。『顔のない敵』にそれがないとは言わないが、短編なのでそこら辺の情緒面の描き方がアッサリしており、長編ほどには気にならない。個人的には大変好ましく思った。
 そして、本格としての、突飛な舞台設定(地雷絡みの話ばかり!)と堅牢なロジックは、これまでの彼の業績によって求められる期待値どおり、手堅くも素晴らしくまとまっている。ここでもまた、短編であることがプラスに作用しており、非常にストレートな筋運びと(本格としては)オーソドックスな論理展開によって、ロジック型の本格ミステリを読む喜びを読者に与えてくれるのだ。読みやすいのも好ましい。お薦めです。