不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

絞首人の手伝い/ヘイク・タルボット

絞首人の手伝い (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)

絞首人の手伝い (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)

 クラーケン島の所有者フラントは、晩餐の席上、弟テスリン卿と諍いを起こす。卿はフラント氏に、伝承上の呪いの言葉を投げかけた。すると、フラントはその場に倒れ、息を引き取ってしまったのだ! これはオンディーヌの仕業なのか、それとも巧緻な殺人者の仕業なのか? 事件翌日に島に到着した賭博士ローガン・キンケイドがその謎に挑む。
 事件とその謎の不気味さは実に強烈であり、それだけでたいへん面白く読める。とはいえ本格ミステリの世界の常としては、強烈な謎には反比例してしょぼい解決が付く、というのがあるので、最後まで読まないと安心できない。『絞首人の手伝い』にも残念ながら若干その傾向はあるが、しかしまだ踏み止まっている方ではある。伏線とトリックも、まずまずの出来栄えだ。不可能犯罪好きにはきっと満足いただけるだろう。
 ミステリ以外の面では、登場人物の描き分けに注目したい。特に主人公のローガン・キンケイドの造形は要注意だ。彼は牢に入っていたこともあり、悪徳の雰囲気を纏いつつも効し難い魅力をたたえており、年少者からはかっこいいおじさまと見られる。こういった人物はノワールに出て来てもおかしくない。しかも本書では彼の過去も言及されルーツがある程度明らかとなるので、『魔の淵』と比べルト彼の行動原理とキャラクターがつまみやすい。
 クラシック・ミステリ好きには要チェックの一冊だし、それ以外の人にも結構楽しめる。