聖域/大倉崇裕
- 作者: 大倉崇裕
- 出版社/メーカー: 東京創元社
- 発売日: 2008/05
- メディア: 単行本
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実に丁寧に紡がれた物語である。登場人物への感情移入を誘って血湧き肉踊る感興を前面に押し出す、ということを大倉崇裕は避けた。事件の構図や人物造形はクリアに浮かび上がってくるが、草庭の苦悩そのものは(直接描かれはするものの)三人称を使って冷静に記述され、どっしりとした安定感を作品は獲得している。ミステリとしての作り込みもなかなか良く、どちらかと言うとトリッキーな趣向を、この落ち着いた小説に無理なく溶け込ませている。
近藤史恵『サクリファイス』同様、『聖域』は、スポーツ小説とミステリが見事な融合を果たした良い小説となっている。広くすすめることができる逸品だ。なお『聖域』を読んで山岳小説に興味を持った向きには、井上靖の傑作『氷壁』もおすすめしておきたい。