ロスト・エコー/ジョー・R・ランズデール
- 作者: ジョー R.ランズデール,北野寿美枝
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2008/05/09
- メディア: 文庫
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《見て》しまった未発覚の殺人事件の調査が、ミステリとしての本書の核をなす。しかし『ロスト・エコー』で真に主眼に据えられるのは、殺人事件云々ではなく、ハリー・ウィルクスという一人の男子の成長である。
100ページ弱の第一部では、ハリーが6歳の時に《見える》ようになった顛末から、16歳の時にケイトの父親が死んだ記事を読むまでが語られる。この間、主人公の思春期模様が、簡素かつ克明に描かれ、本書がビルトゥングス・ロマンでもあることを明示するのだ。第二部以降のハリーは20歳であり、克己して自信と安定を取り戻していく。だがそれは《見える》ことによって挫折の危機を迎えることになる。主人公視点で見た場合、全編で順境と逆境が交錯しており、雰囲気はリアルに浮き沈みし、それを通してハリーは「大人」になっていく。脇役たちのキャラクターも目覚しく立っていて、ハリーに様々な影響を与えると共に、物語に魅力的かつ印象的なエピソードを多数もたらしている。彼らはいい面も悪い面もクリアに描かれ*1、主人公の関係性も非常にリアルな質感を湛えている。ハリーが恋愛中の相手がいいことづくめで描かれるのも、彼が弱冠20歳であることを考えると、また非常にリアルなところだ。
というわけで、ランズデールはその持てる力を十分に発揮し、青春小説のジャンルでも傑作を生み出した。今回はヒューマニズム溢れる筆致が前面に出て来ているので、広い層に受け容れられるだろう。強くおすすめしたい。
*1:これに伴い、登場人物は総合的にもかなり解像度が高くなっている。