エヴリブレス/瀬名秀明
- 作者: 瀬名秀明
- 出版社/メーカー: TOKYO FM出版
- 発売日: 2008/03/14
- メディア: 単行本
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自他共に認めるクレバーな作家が、いくらでも掘り下げられる要素を多数並べて、しかし敢えていずれにも踏み込まず、全てをなだらかに繋ぎ合わせている。個々のテーマに拘泥せず、主人公の人生および未来社会に関し、包括的ランドスケープをソフトかつ緩やかに提示することで、登場人物の生涯を貫いた《想い》を作品の最前面に出したのだ。小説としては綺麗にまとまっているし、美しい情緒的名表現も多いので即時的なイメージ喚起力は高い。ゆえにラジオ・ドラマ映えもするだろうと思う。しかし「グレッグ・イーガンやテッド・チャンばりの大ネタ」が効果的に打ち出されているかというと、少々心許ない。また、《想い》そのものも、ヴェールを一枚隔てたかのような曖昧な記述によって主導されており、この点をロマンティックと捉えるかアンニュイと考えるかで評価が変わってくるはずである。
いずれにせよ、良くも悪くも繊細な作品であることは間違いない。個人的には、時の流れがたゆとうかのような情感に満ちているのは印象的であった。