不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

戦いの子/カリン・ロワチー

戦いの子 (ハヤカワ文庫 SF ロ 6-1)

戦いの子 (ハヤカワ文庫 SF ロ 6-1)

 8歳の時、ジョスの運命は大きく変わった。宇宙船が海賊に襲われ、両親を含む乗員は虐殺され、生き残ったジョスは残虐な船長ファルコンの愛玩物となったのだ! 1年後、補給のため立ち寄ったステーションで逃亡するが、こんどは人類に敵対する異星種族ストリヴィイルク=ナに捕われ、やがて戦士カーストの一員となるべく訓練をうけることに……『エンダーのゲーム』を彷彿させる少年の成長物語と絶賛された傑作戦争SF巨篇


 本書はミリタリーSFである以上に、主人公のビルトゥングス・ロマンである。孤児になってしまった主人公が、シビアな状況の中で何とか成長していく姿を描いているのだ。ポイントは、彼が歳をとるに従って、世界観が単純ではなくなってくることである。最初のうちは、主人公の中で善と悪とは画然と別れており、行動半径も非常に小さくまた接する人物も少なかった。しかし次第に、善と悪とが単純に割り切れなくなってきて、行動半径の広がりによって接する人物も増加してくる。こうなると普通の人間は視野が広がってくるわけだが、ロワチーは物語の中でそれを非常にうまく可視化している。これは素直に賞賛したい。
 SFとしては、ハードSFでは全くないどころか、SF設定を物語にうまく活かしている部分が少ないのが気になる。せいぜい、宇宙船内で育った主人公が星に降り立つと落ち着かなくなり、これが彼の孤児性と寄る辺なさを象徴しているところぐらいか。しかしストーリーをただ追うだけでも楽しめるのは間違いない。リーダビリティが高くて、矢継ぎ早に印象的なエピソードを繰り出し、長さをほとんど感じさせないのは偉とすべきだろう。ちなみに『エンダーのゲーム』を全く彷彿させません。異星種族やそれに味方する人類の戦士の世界観に、求道色・宗教色が混入しているのはスター・ウォーズっぽいかな。
 以下どうでもいいこと。
 幼少期の主人公を本当に海賊のお稚児さんにしてしまえば、話はもっと重くなったと思われるが、作者はそれを避けている。一方で、自分のミスで戦友を死なせてしまった時に、年上の青年の胸に顔を預けて泣いているんだよなあ。おまけに服も微妙に脱いでいる。さらにご丁寧にも、その直前に、同年輩の少女による慰めをわざわざ断っているのだ。BLはOKでも幼児虐待はアウトというラインは、現実社会に生きている一個人としては、それなりに納得できるし正しいと思います。現実社会の倫理規範を持ち出さず、諸権利団体や世間の常識良識を無視できると仮定して物を言えば、正直、幼児虐待しといた方が話に深みが出たと思いますけどね。