不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

フロスト気質/R・D・ウィングフィールド

フロスト気質 上 (創元推理文庫 M ウ)

フロスト気質 上 (創元推理文庫 M ウ)

フロスト気質 下 (創元推理文庫 M ウ)

フロスト気質 下 (創元推理文庫 M ウ)

 デントン署の管区内では「ゴミの中から少年の死体を発見」「別の少年が失踪」「幼児たちが連続して刺傷を負わされる」「少女の誘拐」「身元不明の腐乱死体が発見」などの事件が続発していた。しかし捜査を指揮すべき幹部連は出払ってしまっており、休暇中のフロストが担ぎ出されることになった。しかもフロストを憎むトム・キャシディが警部代行として臨時に赴任して来た上に、フロストとキャシディの補佐役として割り当てられたのは、出世意欲と鼻っ柱の強いリズ・モードだった。
 やはり白眉はフロスト警部その人である。下品なジョークを飛ばしつつ、系統立ったとはとても言えない捜査をおこなう彼の奮闘は、それだけで非常に面白く読める。相変わらずワーカホリックではあるが、休みたいのも事実のようで、一人で罵声を上げるシーンが多いのには笑った。もちろんフロストだけではなく、キャシディやリズ、マレット署長、その他の警官たちも(嫌な面も含めて)活き活きと描かれており、デントン署の活気が鮮明に伝わって来る。彼らがふとした拍子に見せる、人情やしんみりとした表情も味わい深い。各事件の関係者も負けておらず、様々な人間ドラマを展開して読者を魅了する。ウィングフィールドのキャラクター造形のうまさは、やはり只事ではないのである。素晴らしい。
 さて『フロスト気質』は、既存三作に比べて展開がシンプルだ。全事件の情報が入り乱れて現場が混乱する、といったようなことはあまり起きない。もちろん捜査は並行して進展するが、各事件が同時にピークを迎えるといったようなことはなく、捜査陣も読者も、とりあえず事件毎に考えを巡らせる余裕がある。混迷を極めるモジュラー型小説として売って来た当シリーズの中で、本書は比較的スムーズに流れる作品といえよう。とはいえ各事件内容はよく練られており、ミステリ的な興味も(ガチガチの本格ミステリや、突飛な真相といった無茶な期待をしなければ)満たされるはずだ。
 いずれにせよ、どう転ぼうが十分に面白いことは保証したい。ウィングフィールドは今回も流石の貫禄を見せているのだ。もちろん、全ミステリ・ファンにおすすめしたい。