不壊の槍は折られましたが、何か?

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犯罪ホロスコープ? 六人の女王の問題/法月綸太郎

犯罪ホロスコープ1 六人の女王の問題 (カッパ・ノベルス)

犯罪ホロスコープ1 六人の女王の問題 (カッパ・ノベルス)

 エラリイ・クイーンの『犯罪カレンダー』に範をとり、黄道十二星座にまつわる十二の事件により構成される連作短編集――本書は、まずその前半であり、6つの短編より成る。
 正攻法の本格ミステリ短編が並んでおり、後期クイーン問題に代表されるような《名探偵の存在意義》云々といった要素は希薄である。というかほぼ皆無。法月綸太郎のちょっとお惚けなキャラクターと、父親やその他の知り合いとの掛け合いのリズムによって、気楽に読めるのが素晴らしい。もちろん推理面で手を抜いているわけではなく、むしろ趣向を凝らした作品が多い。星座でテーマを縛ったゆえに、多少無理筋な話も多いことを残念に思う人もいるだろうが、この「拘り」の過剰さは法月綸太郎ならではであり、個人的には好意的に解したい。「ギリシャ羊の謎」では、偶々居合わせて事件に巻き込まれただけ、という人物の服を犯人が持ち去るという謎が魅力的である。また「六人の女王の問題」の暗号、一瞬の反転が面白い「ヒュドラ第十の首」*1、長さの割には人間関係が錯綜する「鏡の中のライオン」、もつれた狂気と犯罪計画を燻り出す変な熱気(暑気?)に溢れた「冥府に囚われた娘」も、法月らしい、いい意味で偏執的な側面が垣間見える。
 とはいえ正直、先鋭度と完成度の両面で「ゼウスの息子」が収録作品中ずば抜けていた感はある。この短編が《犯罪ホロスコープ》構想前に書かれているのは興味深い。

*1:ただし、某大家が、この1割未満の長さでより鮮烈な短編を書いてしまっている。