不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

世界短編傑作集5/江戸川乱歩編

世界短編傑作集 5 (創元推理文庫 100-5)

世界短編傑作集 5 (創元推理文庫 100-5)

 最終巻は1935〜50年の作品を収めている。
 ベイリー「黄色いなめくじ」は、事件の陰鬱な構図が素晴らしい。「見知らぬ部屋の犯罪」はカーター・ディクスンにしては整理された作品。登場人物にケレン味が薄いことは、魅力でもあるが、同時に物足りないところでもある。コリアー「クリスマスに帰る」はアイデア一本のショートショートで、オチは綺麗に決まっている。アイリッシュ「爪」もショートショートだが、オチは綺麗と言うよりショッキングだ。Q・パトリック「ある殺人者の肖像」は、殺人へと向かう加害者側の心理的昂揚と、死を迎えんとする被害者の心情を、外面から見事に描き切った傑作。ヘクト「十五人の殺人者」はかけらもミステリではないが、基調が皮肉に満ちているがゆえ、人間に肯定的なラストが印象に残る。フレドリック・ブラウン「危険な連中」は、思念が交錯しそれを読者が神の視点から眺める小説。こういうすれ違いは大好きです。スタウト「証拠のかわりに」は、例によって水準を行くミステリ。ネロ・ウルフとアーチーの掛け合いも相変わらず楽しい。そして最後を飾るのはデイヴィッド・C・クックの「悪夢」。夫の帰りを待つ人妻が恐怖の一晩を体験する。ハッピーエンドなので、世界短編傑作集全体の後味も良くなります。
 というわけで、非常に充実した時間を過ごせました。もっと早く体験しておくべきだったが。