ラットマン/道尾秀介
- 作者: 道尾秀介
- 出版社/メーカー: 光文社
- 発売日: 2008/01/22
- メディア: 単行本
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本書は極めて高い完成度を誇る。恐らく意識的に硬くした文章によって、道尾秀介は「本格ミステリは人間を描くのに適している」ことを証明すべく、登場人物の人生に果敢に切り込む。語り口の、そして物語の色調は基本的に灰色であり、進行もしんねりむっつりしている。快活さは鳴りを潜め、少なくとも《事件》が起きるまで、本書は地味な印象を読者に与えることだろう。だが最後まで読むと、真相が開陳されることで、読者は登場人物のかなり深いところまで見、触れ、理解することができる。これが、本格ミステリの仕掛けを通して実現されているのが素晴らしい。道尾秀介の目的は果たされているのだ。ほろ苦い後味もいい感じである。
ただ、本書のテーマが明らかに《救済》である点からすると、このラストは少々安易と感じられる。個人のパーソナリティにかかわる根深い問題が、(完全に解消されるわけではないが)これほど都合よく救済されると、「根深い問題」そのものが遡及して矮小化されないだろうか。この点だけは残念であったが、恐らく大半の読者にとってはどうでもいいところではあるだろう。『ラットマン』がいい本格ミステリであることは、いささかも揺るがないのである。